27 狙われる少年
「おうセツト、聞いたぜ。帝国軍のフリゲートを一発だって?」
<黒銀の栄光>に戻ると、機兵乗りの海賊達が荒っぽく出迎えてくれた。
「やったな」「初撃沈おめでとう」「すげえなおい」
口々に言いながら一発ずつ叩いてくる。
「この船に乗って初めて戦果を付けたら、俺ら全員に祝いで奢るってのがここのルールだからな、頼むぜ」
「え」
「機兵なら1人一杯なんだが、フリゲートだしな。財布空っぽにしてやるぜ、覚悟しな!」
「お金ないですけど」
「じゃ貸しだな! おめでとう初借金!」
めちゃくちゃだ。
だが祝福してくれているのは伝わってくる。
「この馬鹿ども、あたしに内緒でいつそんなルールを作ったんだい?」
キティの声。
ぴた、と海賊達の動きが止まった。
「作戦失敗だ、逃げろ!」
海賊達は一目散に散っていった。
「まったく、油断も隙もありゃしないね」
「愉快でいいですね」
「言いくるめてただ酒飲もうって悪巧みさ。疲れてるとこ悪いけど、ちょっといい?」
「はい」
キティは身を翻してさっさと歩き始めた。セツト(とその背後に当たり前のようについてきているミツキ)は小走りで追いついて並んだ。
「あんたが出てくれたお陰で、あたしらは惑星の影に隠れることが出来た。このまま衛星の一つに着陸して潜伏するわ」
「はい」
「よくあの白い機体を止めたわね。詳しくは見えなかったけど、ヤバイ機動してたでしょう」
「まぁ」
弧を描くのではなく角を作って曲がることができるなど、全機兵乗りがありえないと言うような機動だ。宇宙には慣性というものがあり、一度加速されれば反対の加速を加えない限りそのままの速度でどこまでも飛び続ける。そのため、機体の機動は必ず曲線を描く。
それが普通の機兵の常識だった。
「うちの機兵乗りどもはどうやって対応するか大騒ぎしてたわよ」
連れて行かれた先は艦長室だった。キティとセツトは向き合って置かれたソファに座った。
「さて、セツト。あんたあの機体、倒せるかい?」
セツトはドキリとした。キティの質問はどちらの意味だろうか。可能不可能なのか、それともセツトの心情としての話か。
セツトは敢えて前者の方だとして返すことにした。
「正直、難しいですね。ガードが鉄壁すぎます。有効打が与えられる気がしません。これから作戦は考えてみようと思いますが」
「そうかい。次の戦いはここから脱出して超空間に入るためのものだ。きっと帝国軍も白い奴だけじゃなく全機兵を出してくるだろうね」
「はい」
一隻を沈めたとはいえ、機兵戦力はほとんどそのままだ。つまりセツト達は2倍の数の機兵と戦わなければならないこととなる。
「どう戦うか、考えるのはこれからになるわ。厄介な戦力差だけどね、逃げられれば勝ちなんだからなんとかするわよ」
セツトは頷いた。
こちらの目的はパルテノスを倒すことでも、帝国軍を無力化することでもない。
勝敗とは、どちらがその目的を達成したかだ。<黒銀の栄光>が無事超空間に突入し逃げ切れば勝ちなのだ。
「作戦会議はあとでやるけど、今のうちに伝えておくわ。
セツト、あんたの機体がヤバイ戦力なのは確かよ。けど、作戦はあたしら全員でやるものだ。いいわね?」
「もちろんです」
先ほどは相手も一機だった。いくらなんでもセツトも全てを1人で相手にしようとは思わない。
「分かっているならいいわ。ところで、パイロットは知り合い?」
キティは逃がしてくれなかった。
セツトの表情が一瞬固まった。
「さては、彼女ね?」
キティにはその反応だけでエルザだとバレた。
「……はい」
「こんなところまで追ってくるなんて。敢えてもう一度聞くけど、倒せるのかい?」
「……目的はあの機体を落とすことではないはずです」
「そんな言葉じゃ自分自身だって騙せてないでしょ?」
セツトは言葉に詰まった。パルテノスに勝つことは目的ではないとは言え、どうにかする必要があるのは確かだ。撃墜やパイロットの殺害を目的にしないとしても、結果的にそうならざるを得ないこともある。
「まぁ、いいわ。そのことは後で考えましょう。作戦会議には呼ぶから、休んでいて」
セツトは艦長室を出て自室へ向かった。
戦いの疲れが心身にある。まずは休むことだ。
「先ほどの戦闘内容を検証し対応策を検討しておきます」
背後でミツキがつぶやいた。
「お願い。ミツキは休まなくて良いの?」
「私に休息は不要です。お気遣い感謝いたします」
「姐さんも大変ねぇ」
艦長室のセツトが出入りしたのとは別の扉、私室へとつながるドアをあけて、シェリーが入ってきた。キティも承知の上で、今の会話を聞いていてもらったのである。
「どうするの、セツトくん。引き金引けなさそうだよ?」
キティは大きくため息をついた。
「決まってるでしょう。どうにかすんのよ」
「私がパクッとして引き金引けるようにしてこよっか?」
シェリーはソファの上でしなを作った。
キティはにらんだ。
「冗談だってば。姐さんのお気に入りには手を出さないって。ただ実際、セツトくんの機体なしで白い奴の相手するのは大変よぅ?」
「何機いたら抑えられる?」
「んー、時間稼ぎなら10機。それでも正直分らない。だって相手もセツトくんを殺す気じゃなかったし。でも、セツトくんフリゲート沈めちゃったからねぇ、次は本気で来ちゃうかも」
「できることなら、元とはいえ婚約者を殺させるのは避けたいところね」
相手が殺しに来るのなら、殺さなくては自分を守れないことがある。身近だった人物を殺すのは、人生経験としては間違いなく重めの部類に入るだろう。そんな経験をさせたくはなかった。
「ふふ。そうだねぇ。私も何か考えてみるよ」
シェリーもキティの考えをくんで、たおやかに微笑んだ。




