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23 反航戦



 セツトは、エリュテリオスのコックピットに入っていた。

 超空間では、機兵の出番はほとんどない。併走し敵船に乗り移って戦う場面であればともかく、それ以外の場面ではやることがないのだ。


 今セツトが出撃の準備しているのは、通常空間に突入した後に必要になるかもしれないからだった。帝国軍がどれだけの兵力を動員したのか分らない。通常空間にも待ち伏せが居る可能性はあった。

 セツトが座るシートの前に小さな穴があり、ミツキはそこに滑り込んで肩から上だけを出していた。


「エリュテリオス、各部異常なし。

 動力炉、スリープよりスタンバイレベルへ復帰します。

 エネルギー供給1%から20%へ。

 コックピットシステム起動します」


 ミツキが出撃準備を進めている。

 コックピット内の画面が点灯した。コックピット正面の画面にセツトが読めない言語で何かがスクロールされていった。


「接続準備完了です、マスター」

「分かった」


 セツトはもうそのボタンを押すことを躊躇わない。


 ボタンを押すと、すぐに接続が完了した。

 セツトの視界が現実世界から機体が提供する仮想の視界に切り替わった。シートだけが宙に浮いているようで、機兵の周囲360度が見渡せる。

 これは騎士鎧にもない機能だ。この機体が騎士鎧よりも高度な技術で作られていることを実感させる。


「機体関節はまだロックしてあります」


 ミツキの声がその空間に響いた。


「うん。しばらく待機だね」


 セツトは機体の外に流れている音声に耳を傾けた。キティの戦闘指示が流れていた。


「ミツキ、今の状況出せる?」

「もちろん」


 空中にガラス板のような画面が浮かび上がり、超空間レーダーの画面が現れた。

 3隻の船が着実に距離を詰めていた。

 ここまでの動きは全てミツキがシミュレートした物とほぼ同じだ。


(そろそろ砲撃だな)


 戦いの時間が近づいていた。




「さぁ、ぶっぱなして通常空間に飛び込むよ!」


 キティが気合いを入れた。

 2対1。明らかに不利なのだ。すれ違って駆け抜けるだけでいいとはいえ、どれほどのダメージを受けるか分らない。


「両舷全ての砲にエネルギー充填。1隻目は左舷、2隻目は右舷で撃つ」

「へい。お頭、狙いは!?」

「帆だ!」


 旋回して通常空間に入ってくるまでの時間を長くさせようというのだ。


「あいよ!」

「左舷エネルギー充填よし。全砲門開け、押し出せー!」

「照準角度調整、ターゲットを固定しやした」

「射撃可能まであと30秒―!」

「右舷エネルギー充填良し!」


 キティは舌なめずりをした。

 今頃敵船も同じように砲撃準備を進めているだろう。


 今だ。


「撃て!」


 <黒銀の栄光>が一足先に砲火を吐いた。

 風が吹き荒れる超空間を切り裂いてビームが走っていく。ビームが敵艦の帆を突き破りダメージを加えた。


 反撃が来た。

 敵艦の砲列が一斉にビームを吐き出し、<黒銀の栄光>の船体を貫こうと襲いかかってきた。

 ビームが船体に突き刺さる。

 何本かは装甲に斜めに当たって反射されてそれていったが、それ以外は表面の耐ビーム層を焼き、内部構造を破壊した。


 <黒銀の栄光>が揺れた。

 フリゲート艦の装甲はスループ艦のそれとは比べものにならない。敵艦の砲撃は<黒銀の栄光>の何重もの装甲を完全に貫くことは出来なかった。


「次、右舷やるよ!」


 ダメージを確認している間もなく、キティの命令が飛んだ。


 <黒銀の栄光>が船体をロールさせ、2隻目の敵にまっすぐ側面を向けた。


 今度は敵の方が早かった。

 敵フリゲートの放ったビームが<黒銀の栄光>の右舷に突き刺さっていく。そのうちの一つがビーム砲の突き出た砲門に直撃し、爆発を起こした。


「やり返せ!」


 <黒銀の栄光>の右舷砲列が一斉に撃たれた。

 今回も狙いは敵船の帆だ。ビームは的確に帆を貫き、ダメージを与えた。


 すれ違いは一瞬。

 2隻と1隻はすれ違い、急速に距離が離れていった。


「ダメージは!?」

「左舷は装甲のみ!」

「右舷、3番目の砲がもってかれやした!」

「上出来だ! このまま通常空間に飛び込むわよ」

「へい!」


 海賊達は元気よく応じた。ダメージは軽い。同じ側から撃たれていればもう少し損傷を受けただろうが、左右に分けることができたのは僥倖だった。


「……おかしら、敵船から妙な物が飛び出しやした」


 そこへレーダー担当の電測士が気になることを言い出した。


「大きさは機兵くらい、小さいながら帆を張ってるようです」


 妙なことだった。帆は小さな機械で発生させられるものではない。すくなくともスループ艦の半分ほどのおおきさはないと搭載する場所がない。

 機兵サイズで帆を展開するというのはあり得ないことだった。


「速度差はどう? 間に合う?」

「えーと、どうですかね。あぁ、間に合います」


 その小型船(?)が<黒銀の栄光>に追いつくより先に通常空間に飛び込むことは出来る。


「それならいいわ、帝国の新兵器かもしれないけど、さすがに超空間転移装置までは積めないでしょ」


 彼らは知らない。

 エルザが乗るパルテノスは、現代を遙かに超越した技術で作られた機兵(レガリア)であることを。

 それ故にキティたちは楽観した。


「まもなくドロップアウト可能エリアっす」

「次元アンカー起動……通常空間に引っかけたっす。転移しやす」


 <黒銀の栄光>が超空間を出て、通常空間に復帰した。

 艦橋のモニターに星空が蘇り、正面に巨大なガス惑星の姿があった。


「通常空間に復帰、周囲に敵艦ありやせん」


 艦橋の空気が一瞬和らいだ。


「よし、じゃあどっか隠れるわよ」

「へい」


 その気楽な空気は、すぐに終わりを告げる。


「な、何かがドロップアウトしてきます!!」

「何かってなんだい!?」


 キティは叫んで返しながらも、心当たりを見つけていた。あれだ。あの帆を展開した機兵サイズの何か。


「出ました。き、機兵です」


 すぐに<黒銀の栄光>のカメラがそれを捉えた。


 そこに、純白に輝く機兵がいた。

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セツトが座るシートの前に小さな穴があり、ミツキはそこに滑り込んで肩から上だけを出していた。 (笑) コックピット内の画面が点灯した。コックピット正面の画面にセツトが読めない言語で何かがスクロールされ…
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