22 待ち伏せ突破
「あーあ。やっぱりいやがった」
キュークの声が艦橋に響いた。
超空間レーダーに自船以外の反応が二つ、明らかにこちらが来るのを待ち構えている配置を取っていた。
「クラスは?」
「へぃ、ちょっと待ってくだせぇ。動きを読みます」
あちらも<黒銀の栄光>を捕捉したようだ。帆を広げてじりじりと加速を始めた。
「戦列母艦にしては速すぎる。んでスループじゃねぇな。どっちもフリゲートっす!」
フリゲート級2隻。
つまり<黒銀の栄光>の倍。
「時間計算しな。先に超空間離脱できるかい?」
「へい」
1人の海賊がキーボードを叩き始めた。
「不可能です」
彼が計算を終えるより速く、ミツキの声がそれを否定した。
キティとセツトの視線が、セツトの席の背後にじっと立つミツキに注がれた。
「敵艦と想定される2隻の位置及び加速状況から推測して、本艦の行く手を塞ぐことは出来ません。
しかし、すれ違いざまに砲撃を行うことを意図するのであれば、ドロップアウト可能エリアに到達する10分前に反航射撃が可能です。想定敵艦が待機していた位置は、本艦が来る方角が多少変動しても必ず反航射撃を行うことを企図していたものと予想されます」
「へぇ、あんた、計算が大分得意みたいだね?」
<黒銀の栄光>のコンピューターはまだ答えを出せていない。
「はい。この艦に乗った当初はデータが不足しておりましたが、これまでの航行でデータを取得できましたので計算可能になりました」
「ほうほう。どうだい、合ってるかい?」
「あー、はい。とりあえず塞げないってのはそうっすね。もう一つは今やってます」
「……ミツキ、あんたの計算結果をそこの画面に出せるかい?」
「お安いご用です」
超空間レーダー画面の隣に四角い画面区画が表示され、そこに想定敵艦の予想進路が表示された。
船は3隻。予想進路はいくつか検討されており、点線が表示されていた。リアルタイムで3隻の船が点線をたどって動く様子が動画で表示された。
封鎖しようとする場合。すれ違いざまに射撃をしようとする場合、回り込んで併走しようとする場合。
なるほど、上手くいくのはすれ違い射撃のみだ。
「すっげぇ」
誰かが声をあげた。
「……あんた、出来る子だったんだねぇ」
キティがしみじみと言った。
「この程度の簡単な計算は賞賛に値しません」
「でもやっぱかわいくないわ」
ミツキは少しだけ首を傾けた。
「本機の性能評価項目にかわいさは入っておりません」
「はん。まぁいいわ。しかし挟まれちまうのは気に入らないね」
現在の進行予想図では、敵艦はほぼ同時に<黒銀の栄光>とすれ違う。
これは非常によろしくないすれ違い方だった。両側から同時に撃たれればダメージは大きいものになるだろう。
「避ける進路を提案いたします」
進行予想図に変化が生まれ、<黒銀の栄光>号の進路が少し弧を描いてドロップアウト可能エリアに向かうようになった。
それにより、想定敵艦の進路も変化し、1隻ずつ順番にすれ違う航跡になった。
「よし、採用。キューク!」
使える物はなんでも使う。
即物的な海賊の思想がミツキを受け入れた。
「へい!」
キュークがその指示をうけて予想図の通りになるように<黒銀の栄光>を操作した。
「海賊船、転舵!」
その様子は、帝国軍の側でも当然把握した。
<黒銀の栄光>の追跡任務を受けたフリゲート艦<サファイアス>艦長のクラーク子爵は、艦橋の艦長席でその様子を眺めていた。
「さすがに挟み撃ちにはされてくれないようだ。連中、なかなかできるな」
「はっ。しかし、もはや袋のネズミです」
「そうだな」
子爵は大きく頷いた。
子爵達が出発するより前に、星系外縁の友軍から超空間嵐の接近が知らされてきていた。帝国軍はこの情報をもとに<黒銀の栄光>の追跡作戦を計画したのである。
超空間に配置した戦列母艦とスループ艦で敵の初期逃走方向を、嵐が来る方に絞らせた。その上でスループ艦を、張り付かせることで自由な逃走経路を取れないようにした。
そして嵐が来る方へと誘導し、退避する場所がここしかないようにした。
作戦は綺麗に決まったように見えた。
張り付かせていたスループ艦がどうなったのかは分からない。振り切られたか、沈められたか。無事であって欲しいとは思う。
「停戦して降伏、という選択肢は取りそうにないな」
「はっ。“裏切り令嬢”は不利な時でも噛みついてくる獰猛な海賊と聞いております」
「勇敢な敵というのは面倒だな。しかも今回は撃沈禁止ときた」
それは公爵から厳命された条件だった。
連中に奪われた機兵を奪い返さなければならないためだ。
「エルザ様のご準備は?」
「先ほど完了したとのことです」
「わかった」
子爵は無意識に胃のあたりをさすった。
これから取る作戦を思うと胃が痛い気がする。
エルザは『かの機兵以外のことについては熟練の戦士である皆様のお手を煩わせることのないよう控えさせていただく』と言った。
どうやらこちらの流儀や指示に従ってくれるらしい、と安堵したのは間違いなく歴史に残る早とちりだった。
何しろこの作戦は、1から10まで『あの機兵』が絡んでいるのだ。
結果、エルザは作戦にかなりの意見を述べた。
大貴族の横暴だ等と憤るつもりは子爵にはない。意見は一応的確な物であったし、本人から言わなければ、とても子爵達から言い出せないような危険な計画さえ、本人から申し出てきた。
しかしである。
大貴族の子女が危険なところに行かないよう作戦を立てることと、本人が自ら危険な担当を望み、周囲が止めることも出来ないというのは、どちらの心労が上だろうか。万が一怪我でもしてしまったら、子爵の将来は社会的な意味でそこで終わりである。
(あーゲロ吐きそう)
早く作戦が終わって欲しい。出来れば何の問題もなく。
子爵は祈った。
「まずは作戦計画通り、すれ違いざまに斉射を加える」
そんな内心を誰にも悟られないよう、子爵は重々しく宣言した。




