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18 うっかり計画

 艦橋のモニターには、様々な情報が表示されている。


 例えば風速風向図。船のどの方向からどれくらいの速さで風が吹いているかが映し出されている。

 今〈黒銀の栄光〉号は船のほぼ真横から風を受け、船首がわずかに風上の方へ向いていた。


 他には船の推定現在位置を示した図。

 船と風の状況から計算された現在位置が表示されている。

 船は今、第三惑星へと向かって航行しているようだった。


 あとは超空間レーダーの探知画面があり、周囲にいる宇宙船が三角形で表示されていた。

 帝国軍スループ艦、と暫定で印がつけられた船が風上にいる。

 その艦は、〈黒銀の栄光〉が超空間に入ってきたときにはほぼ風上の真上にいたが、〈黒銀の栄光〉の方が速いため、いまではやや後方にいて距離が開いていた。


 超空間での速度の法則はシンプルだ。


 小さく軽い方が加速するのは早いが、最高速度は帆を大きくできる大きい船の方が高い。また重量が大きければ大きいほど加速性と最高速度性能が悪くなる。


 戦列母艦はフリゲートより大きいが、遥かに重いため、最も加速性能が悪く、最高速度もフリゲートに劣る。


 フリゲートは搭載量よりも速度を追求しており、加速はスループほどではないものの、最高速度は最も高い。


 もっとも小さく軽い艦であるスループの強みは、その加速性能と風上に向かって切り上がっていく能力にある。追い風ではフリゲートに追い付かれるが、風上に向かって航行するときに限定すればフリゲートより速くなることもあった。


 軍艦の速度の関係は基本的にはこのようなものだ。

 だから今、帝国軍のスループ艦は横風を受けて走る〈黒銀の栄光〉より遅く、置いていかれそうになっている。


「やっぱあれ引き剥がしたいわね」


 キティがつぶやいていた。


「このままいけば剥がせるのでは?」


 セツトは聞いてみた。このままいけば、もっと互いの距離が開き、いずれレーダーで探知できない距離になるだろうと思えた。

 なお、すでに艦橋にはキティの席の脇にセツトの席が新設されている。


「その頃には、行き先の方からフリゲートかなんかがくるわよ」

「あ、そうか」


 帝国軍の軍艦は一箇所にじっとしているわけではない。星系内の各惑星を哨戒して巡っている。


 星系内の超空間航行において、通常空間換算の最高速度は概ね光速の1%程度で、超空間を進む船より通常空間を進む電波の方が速い。

 つまり、〈黒銀の栄光〉がどちらの方に行くか分かれば、出発地点の惑星から進行方向にある惑星に電波通信で連絡し、そこにいた軍艦に待ち伏せをさせることができる。


 途中で<黒銀の栄光>が方向を変えた場合には、張り付いているスループが近くの惑星に離脱してそれを知らせる。つまり、待ち伏せを避けるには、どう方向転換したか知られないようにしなければならず、即ちスループをどうにかしなければならないということだ。


「じゃあ、何とかしないといけないわけですね」


 セツトはレーダーの画面を見た。

 風下に〈黒銀の栄光〉とは逆の方向に向かって進んでいる船がいた。


「あの船は?」

「なんだと思う?」


 聞き返されて、セツトはレーダー画面からわかる情報をもとに考えてみた。

 速度は黒銀の栄光より明らかに遅い。方向が逆とはいえ風の受け方はほとんど同じはずで、つまりこれは船の性能の違いによるものだ。


 星系における現在位置からして、その船が超空間に入ったのは<黒銀の栄光>が超空間に入るよりかなり前だろうと思われた。超空間内において遠距離で通信を行う方法はないから、キティ達についての情報は持っていないだろう。フリゲートが罠のためにあえてゆっくり走っている、という可能性は排除して良い。


「戦列母艦か、輸送船、商船の類いでしょうか」

「そうっぽいわね。付け加えるなら、横流れの感じが戦列母艦とは違うように見える」

「なるほど」


 帆船が橫から風を受ければどうしても風下に押し流されてしまう。これを橫流れという。

 横流れではレーダーで観測した数字には表れにくい部分で、これはキティの経験によるものだろう。


「あの船使えないですかね?」

「何かアイデアがあるなら聞くわよ」


 セツトは思いついた作戦をキティに説明した。

 それを聞いて、キティは頭の中で検討し、頷いた。


「面白そうだ。やろうか。ところでセツト、今あんたが言った計画って帝国の船を襲うってことだけど、言って良かったのかい?」

「あ」


 忘れていた。

 セツトは今『安全なところにたどりつくまで』答えを保留している状態である。積極的に帝国の船を襲う計画を立てることは望ましくない。目の前の問題を解く感覚でつい考えて言ってしまった。


 キティは大笑いした。


「出したもんは引っ込められないから、やっちゃうわよ」

「あー、そうですよね」


 なかったことにはできない。セツトは自分を納得させるしかなかった。




 そして、必要な準備を終え、海賊船は動き出した。

 舵を切り、進行方向を変え、風下の輸送船(仮)の未来位置に合流するように移動を始める。


 風は追い風。順風満帆。

 船の上下左右全方向に張られた帆のすべてに風を受け、〈黒銀の栄光〉は最大の速度を得て獲物に向かった。


「さぁ野郎ども、襲撃の時間だ!」


 キティが部下達に発破をかけた。


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