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17 海賊流儀

 超空間を使ったとしても、惑星間の距離は決して短いものではない。

 監視役と思われるスループ艦をどうにかするにしても、戦列母艦から十分距離を取ったあとの話として、キティは早々に当直体制での航行に切り替えた。


「ちょっと時間あるから、ご飯でも食べましょうか」


 ということで、セツトは艦内で割り当てられた部屋で着替え、食堂に来ていた。

 食堂にはすでに何人もの海賊たちがいて、いくつかのグループに分かれて食事をとりながら談笑していた。海賊のイメージに反して、誰も酒を飲んでいない。


「あ、セツトくんだ」


 シェリーがセツトを見つけてふわっと手を振ってきた。彼女もすでにパイロットスーツではなく、ゆったりしたサイズの私服に着替えていた。


「シェリーさん、お疲れ様です」

「ごはん? わたしの隣座る?」


 そう言うシェリーの席の隣には人が座っているのだが。

 セツトの視線に気づいてシェリーがその男の方を見た。


「お前いつまでそこ座ってんの?」


 氷点下の声音だった。


(この人こわっ)


 セツトがシェリーの豹変を見たのはこれが最初である。


「す、すみませんっ」


 海賊の男が慌てて席を立った。


「あ、いえ、もうすぐお頭も来ると思うので……」

「なんだ、姐さんと一緒の予定なんだ。ざんねーん。じゃあ今のうちにごほうびあげるねえ」


 そう言ってシェリーが立ち上がった。


(ごほうび?)


 何かわからないが何か嫌な予感がしてセツトは後ずさろうとした。

 だがなぜか足が動かない。


「そう。さっきの戦闘でね、騎士鎧を落とした人にはちゅーしてあげるって決まってたの」


 食堂中の男たちから本気の殺気が飛んできた。


(知らない知らないそんなの知らない)


 逃げたい。逃げ延びたい。

 シェリーがにじり寄ってくる。


「セツトくん、さっきの戦いで騎士鎧落としてたでしょう?」


(狩られる……!)


 なにかがやばい。シェリーの目は狩人が獲物を見るそれだ。誰か助けて。


「お待ちください」


 救世主は少女の姿をしていた。


「私の目の前で、マスターに不埒な真似をすることは許しません」


 勇者ミツキである。


「不埒じゃないわよ。ごほうびだもの」


 シェリーの瞳に炎がともった。


「ご褒美かどうかは受け取る側が決めることです」


 ミツキの方は涼しいものである。いや、熱くも涼しくもなく無であるというべきか。


「じゃあお前が決めることでもないよね。何、喧嘩売ってるの? 買うよ?」

「その言葉はむしろあなたが喧嘩を販売している側であることを示すものです。購入してさしあげましょうか?」


 ミツキが煽った。

 このままでは食堂が大変なことになる。

 しかし、誰一人この間に入ろうという命知らずはいなかった。海賊も常に命を捨てられるわけではない。


「やめな」

「はい姐さん」


 一触即発の空気は、キティの一言で霧消した。いつの間にか食堂に到着していたらしい。


「ミツキ、また喧嘩売ったのかい?」

「不本意です。私は売られた側です」

「どっちも一緒。シェリーも、この子少し融通利かないから気をつけな」

「はい姐さん。セツトくん、ごほうびまた今度ね?」

「ご褒美は禁止だ」

「えぇー! 姐さんのけちー!」

「けちじゃない。セツト、ここはうるさいから個室いくよ」


 シェリーが文句を言い続ける中、セツトはキティたちと食堂の個室に入った。もう一人はもちろんミツキである。


「ミツキ、お前があちこちで喧嘩してたら、危なくなるのはセツトだぞ?」

「申し訳ありません。円滑なコミュニケーションに関する学習が不足していることを認識しました」

「おや、殊勝」

「はい。キティは暫定的にマスターの味方であると判断いたしました」

「その『暫定的に』ってとこだよ」

「なるほど。学習しました」


 キティがため息をついた。


「セツト、こいつしばらく喋らせちゃダメなんじゃないか?」

「僕もそんな気がしてきたところです」

「そうでしょ。ま、座ろうか。何食べる?」


 そう、そもそもここには食事に来たのだった。3人がメニューから好きなものを選ぶと、すぐに壁が開いてトレーが出てきた。


「ミツキも食べるんだね……」


 キティの言葉にミツキは言葉なくうなずいた。どうやら先ほどの会話を拾って黙っていることにしたようだった。


「海賊船に乗るのは初めてだろ、どう?」


 キティが食べながら話しかけてきた。


「皆さん楽しそうですね」


 それがセツトの抱いた第1印象だった。


「そうだね。はじめから海賊になりたくてなったやつは誰一人いないけど、楽しくやらないとしょうがないからね」

「誰一人。おかしらもですか?」

「あー、あたしはどうかな。元々あたしの父親がこの船のおかしらやってたんだけど、4年前死んじまってね。あたしがやんなきゃまとまんないと思ったもんさ」

「そうなんですね」


 セツトはなんとコメントすればいいのか困った。ただ、これまで見てきた限り、キティは海賊たちに非常に慕われている。いろいろな事情があったのかもしれないと思った。


「そう。海賊なんて伊達と酔狂。かっこつけて世の中を笑い飛ばさなきゃやってらんないのさ」


 キティは(うそぶ)いた。


「伊達と、酔狂」

「そ。あたしたちはそれでこれまで生き抜いてきた」


 キティがニヤリと笑う。セットはそうやって笑えることを羨ましいと思った。




 帝国軍フリゲート艦<サファイアス>艦内のブリーフィングルームに、艦及び艦載機兵部隊の主だった者たちが集められていた。

 皆口を閉ざしてブリーフィングが始まるのを待っていた。

 ドアが開き、サファイアス艦長クラーク子爵が入ってきて、全員の正面に立った。そのすぐ後に金髪の少女が入ってきて、子爵の隣に立った。


「これより軍議を始める」


 子爵はかしこまった言い方をした。


「卿らには今更言うまでもないだろうが、このところ本星系内に入り込んだ海賊が悪さをしている。先日連中をあと一歩で追い詰めるところだったが、正体不明の機兵の介入により撤退せざるをえなかった。帝国貴族の一員として慚愧に堪えない」


 子爵の背後の壁面にキティの顔写真が映し出された。


「奴らの頭目の名はキティシア・カーリス。卿らの中には“裏切り令嬢”という呼び名を聞いたことがある者もいるかもしれない。かつて帝国貴族でありながら出奔し海賊になり下がった、カーリス元子爵の娘だ。

 先日介入された正体不明の機兵は、帝国が得るはずだった機兵だが、いかなる手段によってか卑劣にも連中の手に渡ってしまったことが明らかとなっている。

 かの機兵の戦闘能力の一端については卿らも聞き及んでいると思う。恐るべきことに我ら帝国貴族の誇りである騎士鎧ですら苦戦せざるを得ないほどの強敵だ。

 そこで、今回、テーセウ公爵令嬢エルザ様にご加勢いただけることになった。レディの乗機については卿らも格納庫で見かけていると思うが、公爵閣下より、かの機兵に匹敵する機体であるとの説明をいただいている。

 エルザ様、ご挨拶いただけますでしょうか」


「ありがとうございます、子爵」


 艦長に一言礼を言ってから、エルザは室内を見渡した。この星系にいる男爵以上の貴族であれば全員顔と名前を知っているエルザだが、騎士となるとさすがに全員とまではいかない。何人か初めてみる顔があった。


「はじめましての方もいらっしゃるようですので、自己紹介させていただきますわ。テーセウ公爵令嬢エルザと申します。

 この度父より申し付けられ、同乗させていただくことになりました。『かの機兵』についてはわたくしが相手をさせていただきますが、それ以外のことについては熟練の戦士である皆様のお手を煩わせることのないよう控えさせていただく考えでおります。どうぞよろしくお願いします」


 エルザのあいさつに、室内の全員が拍手をした。


「ありがとうございます。どうぞそちらにおかけください。

 さて、それでは今回の追撃作戦について説明をする。

 追撃作戦は本艦ともう一隻、フリゲート<ザナリア>とで担う」


 子爵は壁面に星系の全体図を表示させ、具体的な作戦の説明をはじめた。



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