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14 第3の選択肢

 キティと海賊たちが塔から出ると、シェリーと通信がつながった。


『姐さん、すみません。上取られちゃいましたぁ』

「戦列母艦が来たって?」

『そうなんです。ダイオン伯爵の船ですよ、あれ』


 つまりセツトの父親の船だ。


「家出息子を探すにしては大規模ね。いまどうしてる?」

『援軍の数が多かったのでやりあわずに離れました。遺跡を囲おうとしてる地上部隊の外側にいますよ』


 キティは機体備え付けの昇降ワイヤーを使って自らの機兵のコックピットに戻った。

 コックピット内のモニターにシェリーの顔が映った。


『あれ、姐さんの男の子は?』


 向こうにもこちらの画像が映ってセツトがいないことに気付いたようだ。


「中に置いて来たわ」

『いいの?』

「あとはあいつがどうするか決めればいいさ」

『ふぅん。お宝は?』

「あいつと一緒」

『えぇー。姐さんまたお人好し発動しちゃったの? あんなウブそうな子、ちょっとギュってしてチュってしたら絶対こっちのものなのに』

「そんなあんたみたいな真似、あたしはしないわよ」

『そうね。姐さんも意外とウブだもんね』

「おい」

『いいのよ。そんな姐さんだから私たちは、命賭けられるんだから。で、どうします?』

「突破できそうかい?」

『問題は上かなぁ』


 戦列母艦に搭載されている40機の機兵。これが厄介だ。何しろ上から丸見えの状況である。


「それでも強行突破するしかないか」


 キティはつぶやいた。

 さすがに兵数に差がありすぎる。損害なしとはいかないだろう。




 帝国軍の戦列母艦から機兵が発進していく様子を、セツトはエリュテリオスのコックピットで把握していた。

 発進した機兵は高度を下げることなく上空にとどまっている。海賊たちを逃がさないようにするためだった。


(これがあれば、貴族でやっていける、か……)


 セツトに迷いが生まれていた。

 そうかもしれない、とは思う。情報として把握したエリュテリオスの性能は、騎士鎧と比べてさえ隔絶している。この機体があれば騎士鎧に乗れないということはさほど重大視されないかもしれない。

 だからといって何もなかったかのように戻って、貴族として生きていくのがよいのだろうか。それでよいのだろうか。


 キティたちと過ごした時間は長いものではない。

 それでも多くのものを見て、感じた。

 義務に縛られていない自由さ。

 それはこれまでのセツトの人生にはなかったもので、しかしいいなと思ってしまった。

 貴族として義務に縛られる人生か。それとも。自分が本当に求めているのはどっちだ。


(……おかしら達が動き始めた)


 塔の前から、4機の機兵が外周へ向けて動き始めた。

 帝国軍もその様子を観測して、地上の機兵たちが動き出した。シェリーたちの機兵に警戒する様子を見せつつ、キティたちの進路をふさごうとしている。

 シェリーたちの機兵が仕掛けた。キティたちを脱出させるためだ。


(どっちだ。ぼくはどうすればいい)


 状況を見る限り、このままではキティたちが脱出するのは極めて難しい。かといって、帝国軍に攻撃を加えればそれは結論を出したことと同様だ。

 心が焦る。


『マスター、支援AIとして一言申し上げます』


 ミツキの言葉が飛び込んできた。


『現状は本当に二者択一でしょうか?』

「……第3の選択肢があるってこと?」

『私は支援するだけのものですので、どのようなものかは推測しかねます』


(どちらを選ぶのでもない、現状を打破する選択肢か……)


 セツトは思考を切り替えてみた。

 ひとつのアイデアが浮かんだ。


「ミツキ、ちょっと手伝ってくれる?」

『イエス、マイマスター』




 地上では、帝国軍とシェリーたちの戦いが始まっていた。

 数の上では20対18だが、帝国軍の中には5機の騎士鎧の姿がある。

 量産機兵で騎士鎧に対抗するには2対1以上でなければ厳しい。その換算で行くと、海賊たちには25機以上の機兵がほしいところだった。


 その数の不足を技量でギリギリ補い、シェリーたちは帝国軍の地上部隊の足を遅らせていた。

 その様子を見たのだろう。上空にいた機兵のうち8機が降下を始めた。


「あー、腹立つ! よってたかって美女をいじめるなんてそれでも騎士なの!」


 シェリーが誰にともなく叫んでいた。

 キティたち4機にはもう武器がない。つまり接敵されたらまずいことになる。なんとしても足止めして離脱させてやらなければならない。

 帝国軍の側は、シェリーたちに対しては防戦の構えだ。重要なのは遺跡に入って行っていた4機の方だと気づいているようだった。


(ほんとに死ぬ気でいかないとまずいかも)


 シェリーは思った。

 キティの一味は、誰一人キティのために死ねない者はいない。もちろん無駄に死にたいわけではないが、ここぞというときにはそれができる。シェリーはそう信じていた。

 死ぬ気でいく。

 それはハイリスクハイリターンな攻撃方法を選択するということだ。場合によっては腕一本の代わりに命をもらうような方法を選択するということだ。


「お前たち」


 シェリーは部下に呼び掛けた。


「姐さんのために、ここで私と死んでくれる?」

『いやっす』


 誰かが答えた。


『そういうのはあっしらがやるんで、シェリー姐さんにはあっしらの墓の前で泣いてもらいたいっす』

「よし、お前から死ね」

『聞いたか、最初に死んだやつのためには泣いてくれるってよ!』

『ひゃっほーう』


 通信が沸いた。


『騎士鎧落としたらなんかありやすか!?』

「そうね、騎士落とした奴にはキスしてあげる」


 戦意が爆発した。

 海賊たちの機兵の動きの質が変わった。殺されても殺してやるという気迫が満ちる。

 戦場がいよいよ混沌となりはじめたその瞬間。


 4本の銀の光が戦場を割いた。

 一瞬で雷光のように走り抜けたそれは、今撃たれようとしていたビームライフルを貫き、放たれたビームを散らせ、振りかぶられていたカトラスを握る手を打ち砕いた。


(これは、遺跡の)


 この場所は遺跡の外だ。防衛機能が動くはずがない。

 シェリーは訝しみ遺跡の方を見た。

 遺跡の中央の塔。その上空に一機の機兵の姿があった。宇宙の黒さに溶け込むような黒紫の機体。

 シェリーはその名を知らなかったが、セツトが乗ったエリュテリオスである。


『当基地周辺で戦闘行動を行う両勢力に告げる』


 通信機から知らない少女の声が響いた。


『当基地に危険を及ぼす可能性のある戦闘行動は看過できない。ただちに戦闘行為を中止せよ』


「……一旦離れるよ」


 シェリーは判断した。

 お宝はセツトと一緒とキティは言っていた。それならあの機兵がお宝で、これはあの坊やが何かを考えてやっていることだ。

 一機の騎士鎧が、離脱しようとした海賊たちを撃とうとライフルを構えた。


 たちまち剣が反応した。

 剣の一本が放たれたビームを迎撃し、もう一本が騎士鎧に襲い掛かっていく。

 騎士鎧はその剣の軌道を読んでビームサーベルで迎撃する。

 正しい選択ではあったのだろう。相手がその剣でなければ。剣はするりと軌道を変えてビームサーベルをかわし、騎士鎧の後背に回り込むと、背の反重力機関をたたき斬った。

 騎士鎧がこれまで打ち消していた重力に捕らわれる。

 それでも騎士鎧は戦意を失わず、噴射炎を吐き出し高速で機動しようとした。


 そこに3本目の剣が待ち構えていた。

 騎士鎧が腰で上下に両断された。

 騎士鎧の腰から下が地面へと落ちていき、上半分は噴射で姿勢を整え、落下は免れていた。もっともこれは、撃墜されたと判断されるほどの損傷だった。


『戦闘行為を中止しない場合、当基地に敵対したものとみなし攻撃を行う』


 騎士鎧がほとんど一瞬で墜とされた。

 それを見て攻撃を続けようというものはいなかった。




「あー、ミツキ、でいいのかな。話せる?」


 戦闘が終了したのを確認して、キティが通信に呼び掛けた。


『はい。なんでしょう』


 その一瞬で回線が海賊全員共同の暗号通信から個別の通信に切り替わった。


「助けてもらった、ということかなこれは」

『その説明はマスターよりさせていただきます』

『……あ、おかしら?』


 セツトの声がした。


「帝国に戻んなくていいのかい?」

『あー、それなんですが、すぐには決められそうにはなかったので、機械が自動で防衛したってことにして戦いを止めることにしました』

「あの剣は、機兵の武装だったのかい」

『えぇ、流用して防衛に使っていたそうです』

「おっかないね。それで、この後はどうするんだい?」

『おかしらたちの安全を確保してからじゃないと、どっちにするか決めても後悔してしまうと思うんですよね。なので、この星を離れて安全なところにたどりつくまで、船に乗せてもらっていいですか』


 キティは噴き出した。

 なんと融通が利いた計画だろうか。騎士鎧に乗れないなどと悲嘆していたのとは別人のようだ。


「いいわ。乗っけてあげる」


 キティは答えた。

 そんな中、海賊同士の通信回線で誰かがつぶやいていた。


『おい待て。あのガキが乗った機体が騎士鎧を落としたってことは、シェリー姐さんのキスは……?』


やっと主人公が主人公機に乗りました。

さてセツトはシェリーにキスされてしまうのでしょうか。セツトに貞操の危機が迫る!

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― 新着の感想 ―
そういえば今、海帆て会社がボロ株界隈で話題になっていますな。 居酒屋チェーンなのにパラオで発電所作るってぶっ飛び具合がなかなか。
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