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13 機神の目覚め

 遺跡上空に飛び込んだキティたちの機兵たちは、一機につき一本の剣が突き付けられ、動きを封じられた。

 どの機体も武装を失ってしまっていた。

 4機はすべて両手を挙げて空中に静止し無抵抗の姿勢を見せていた。


 キティたちが抵抗をやめたのを確認したのか、剣のうち3本が散開し、キティたちを取り囲んだ。

 キティの機兵の前にいた一本が、すこし後退した後、手招きをするようにパタパタと刀身を振った。

 そして後ろを向きゆっくりと飛んでいく。


「ついて来い、って言ってると思う?」

「思います」

「そうよね」


 キティたちは両手を挙げた状態のままその剣の後を追った。

 剣は、遺跡の中央、最初にキティたちが目指そうとしていた塔の方へと向かっていた。


「遺跡にこんな防衛機能があるなんて聞いたことがない。どうやらここは生産設備の遺跡じゃなさそうだね」

「なるほど。帝国軍がずっといたのは、きっとこの防衛機能があって、帝国軍も手が出せなかったからですよね」

「そうなるだろうねえ」

「つまりここには、古代の超文明が防衛機能を付けて守りたいと思っていたほどのお宝が眠っている、ていうことにならないですかね。ワクワクしますね?」

「ははは、確かに!」


 キティが楽しそうな笑い声をあげた。


「そりゃあその通りさね。セツト、あんた海賊心が分かってるじゃないか!」


 剣は予想通り、遺跡中央の塔の前に降りた。


『……なぁおい』


 そこにいたものをみて、海賊の誰かが声を漏らした。


『外、真空だよな?』

『あぁ。計器はそう言ってる』

『じゃ、なんでスーツも着てねえ女の子があんなとこにいるんだ?』


 誰もその疑問に答えられない。

 塔の前には、一人の少女が立っていた。黒紫色の髪と同じ色の服を着て、そこに大気があるかのように平然と立っている。

 剣に誘導されて、4機の機兵がその前に降りた。


『機体から降りてきてください』


 突然、聞いたことのない声が通信に混じった。それは子供っぽい音色なのに感情を感じさせない少女の声だった。


「暗号通信に介入された……。なんてことだい」

『抵抗は無意味です。戦力差はすでに理解いただいているでしょう』

「……」


 キティは無言でヘルメットのバイザーを下ろしてスーツの気密を確保した。

 セツトもそれに倣う。

 コックピットハッチを開けるボタンを押すと、コックピット内から空気が抜かれたのち、ハッチが開いた。


 外はセンサーが示していた通り完全な真空だ。

 キティはハッチの上から飛び降りて、ゆっくりと降下し地面に着地した。地面に降りるためのワイヤーを下ろそうとしていたセツトは、それをみて思い切って飛び降りた。


 重力制御がかけられた街中とは異なる、天体本来の弱い重力がゆっくりと体を降下させていく。

 着地。

 そのころにはすでにほかの機体に乗っていた海賊たちも降りてきていた。


 誰もがその少女を見ていた。

 生身の体は真空に耐えられない。そもそも呼吸ができないのだから当然だ。

 そのルールが今目の前で脅かされている。


 一方、少女の方は、セツトの方を見ていた。

 否、セツトのことしか見ていなかった。

 少女が歩いてくる。

 さすがの海賊たちも少女が近づいてくるとその不気味さに後ずさって離れた。キティだけがセツトの横で腕を組んだままじっと観察していた。


 少女はセツトの目の前まで来た。少女は直立不動になると、指を伸ばした右手を自らのこめかみに当てる見たことのないポーズをとった。


『おかえりなさいませ、マイマスター』


 少女の声はセツトに向けられている。

 しかしセツトには全く何のことかわからない。


『動揺を検知しました。もしや、私のことをお忘れでしょうか』


(絶対に知らない)


 見たことのある顔ではない。


『……状況を精査いたしました。失礼いたしました。私のことをご存じないことは無理からぬことと認識いたしました』

「そ、そう」


 セツトは事態の変化に全然ついていけていなかったが、それだけは何とか絞り出した。


『改めて自己紹介をさせていただきます。私は地球連邦軍最終反抗作戦(オペレーション)神々の黄昏(ラグナロック)作戦部隊(タスク・フォース)所属全天型多目的人型決戦兵器タイプZ(ゼータ)専用支援AI搭載人造人間(アンドロイド)、ミツキと申します』


 肩書が長い。


『どうぞミツキとお呼びください』

「よろしく、ミツキ。僕はセツトだ」


 戸惑いながらもセツトは自己紹介を返した。すくなくとも彼女はセツトには敬意らしきものがあるようにふるまっている。


『はい、マスター。それで、こちらの方々は敵でしょうか、味方でしょうか』


 ミツキは目線をセツトから動かさないが、こちらの方々とは海賊たちのことだろう。


「味方だよ」

『承知しました。味方として登録いたします。皆様』


 ミツキはここでようやくキティと海賊たちを見た。


『味方とは知らず、先ほどは攻撃を加えてしまい失礼いたしました』


 腰を折った。動作と裏腹に言葉は平静で申し訳ないと思っているようには全く見えなかったが、そのことを指摘できる勇者はいなかった。


『お、おう。こ、この先気を付けてくれや……』

『はい。さて、マスター、ここにあるものについては言葉で説明するよりも見ていただいた方が速いと判断いたしますがいかがでしょうか』


 見せてくれるのなら見たい。

 なにしろ、それが目的でここまで来たのだ。


「そうだね。見せてほしい」

『かしこまりました。それではこちらへどうぞ』


 ミツキは塔へ向かって歩き始めた。

 その後をセツト、キティ、海賊たちの順でついていく。


 両側にスライドして開いた壁面の入り口から中へと入っていく。内部はつるつるした樹脂素材でできた通路になっていた。

 通路は一直線で、扉は一つもない。


 しばらく歩いていると、開けた空間に出た。


 正面に、大きな機兵の胸部があった。

 色のベースはミツキの髪色と同じ黒紫。ところどころに金銀色で装飾が加えられている。大きさは騎士鎧よりも一回りほど大きいだろうか。

 床と同じ高さにあるコックピットのハッチは開いていて乗り込めるようになっていた。


『これが解放者(エリュテリオス)と名付けられた機体です』

「エリュテリオス……」

『本基地は、エリュテリオスを製造し、正しい操縦者の手に渡されるまで機体を保護するために設置されました』


 つまり、これがこの遺跡のお宝だ。

 機兵。

 古代の文明が完成させたオリジナルの機兵。

 とんでもないお宝だ。


『マスター、どうぞお乗りください』


 ミツキがセツトに向かって機体を指し示した。


「……僕が?」

『もちろん』


 いわれるがまま、セツトはコックピットに入った。

 計器類や画面にはすでに明かりがともっている。基本的な構造は騎士鎧のものに似ていたから、セツトにはどこのボタンが何なのかおおむね想像がついた。


 接続開始ボタンがある。

 あのときエラーしか返してこなかったボタンだ。

 セツトはそのボタンを押そうとして、手が震えた。

 ゆっくりと、震えながら手を伸ばし、ボタンを押し込む。


『接続開始』


 正面の小さなモニターに字が表示された。


『支援AIとの接続を確立』

『支援AIと操縦者の接続を確認』

『操縦者認証』


 基本的な流れは騎士鎧と似ているようだ。

 問題の認証がここだ。認証の条件は騎士鎧と同じなのだろうか。それとも何か別のものなのだろうか。


『認証適合』

『接続完了』


 その瞬間、膨大な情報が脳に流れ込んできた。

 機体の状況とその能力。そして機体がつながっている基地からの情報についても少々。


(動かせる)


 セツトが動かそうと思えば動く。そう確信できる感覚があった。

 流れ込んできたいろいろな情報を確認していると、セツトは一つの情報に気が付いた。


「おかしら、大変だ」

『どうしたんだい?』

「帝国軍の部隊が集まってます。地上から機兵20機。それと、上空に戦列母艦」


 合わせれば機兵60機にもなる。これだけの数の部隊なら、当然騎士鎧も含まれているはずだ。

 キティたちの部隊は22機。うち4機は戦闘能力をほぼ失っているから、差し引き18機。

 つまり3倍の敵だ。

 キティの顔色が真剣なものに変わった。


『あんたたち、戻るよ』


 キティが外へと向かう。


「僕も」

『セツト』


 行きます、と言おうとしたところをキティの声に遮られた。


『その機体はあんたのものだ。騎士鎧に乗れなくてもそいつがあれば貴族でやっていけるんじゃないのかい?』


 キティの声は淡々としていて、何を感じているのかまではわからなかった。ただ、その言葉の意味するところは明らかだった。


(戻れる……?)


 セツトの心が揺れた。


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父上達知ってた、或いは候補者だった? 貴族じゃない→それどころかやんごとなき血筋?
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