12 気楽な襲撃
あらためて数えてみると、海賊たちの機兵は22機あった。
戦力としてはそれなりのものだ。帝国軍の主要艦である戦列母艦の標準的な機兵搭載数が40機。その半分もの機兵を有していることになる。
「作戦はこうさ」
赤い機兵のコックピットの中で、キティは背後の補助席に座るセツトに作戦の説明をしてくれた。
まず、機兵8機で遺跡のそばに築かれている駐屯地に奇襲をしかける。駐屯地にある機兵の数は4機で騎士鎧はいないから、まず勝てる。
その間にキティを含む4機が遺跡に突入し、お宝を奪う。
残りの8機は潜伏して予備兵だ。帝国軍の増援に対して側面か背後から攻撃を加える伏兵として使う。
セツトには無難な作戦であるように思えた。
『姐さん、こちら準備OKです』
ピンクブロンドのゆるふわ系の女性から通信が入った。彼女は駐屯地奇襲部隊のリーダーだ。
「シェリー、あんたの判断で仕掛けていいわ」
『はぁい。じゃあ1分後くらいに』
それで通信終了するかと思いきや。
『姐さんが拾った男の子って乗ってるんでしょ? 顔見せてよ』
と言い出した。
「え、なんでしょう」
セツトは体を傾けて操縦席の脇から顔をのぞかせた。
『きゃー、かわいい。ねぇ、あとでお姉さんの部屋おいでよ』
「おいシェリー」
キティの声に棘が生えた。
『なによう、話をするだけよう。え、それとも姐さんの部屋に行っちゃうの?』
「来ないわよ。ほら、仕事の時間だろ」
『はぁい』
通信が終了した。
「どいつもこいつも無駄口ばっかりたたいて済まないわね」
「あ、いや、楽しい人たちだなと思います」
「それ伝えると調子に乗るから、やめたほうがいいわよ」
「はは」
セツトはあいまいに笑った。
シェリーの方では、部隊全員に攻撃タイミングの指示を終えていた。
「30秒後に一斉攻撃。いつも通りね」
『へい!』
部下たちの元気のいい声が返ってくる。
「あー、かわいい男の子だったなぁ。ほんとに私の部屋来てくれないかなぁ」
うっとりとした表情を浮かべるシェリーに、部下の声が届いた。
『姐さん、俺は、俺は! いつでもいきやすよ!』
シェリーは一瞬で表情を侮蔑へと変えた。
「は? 自分の姿鏡で見たことある?」
『あります!』
「お前が金髪で勤勉だけど繊細さやはかなさもちょっと感じさせるくらっとくるようなきれいな顔になったら考えてやるよ」
『がんばります!』
『姐さん、あっしは!』
「お前は若くないからダメ。10代に戻って出直しな」
「あっしは!?」
『顔の大きさ半分にしてから言え』
無駄口が通信を満たした。海賊たちが立候補してはシェリーに叩き切られていく。
いつものことだ。
無駄口は終わらない。そんなうちに、攻撃の時間が来た。
『姐さんのこと愛してます!』
「愛の大きさを宝飾品で表現してみせな。それ次第で考えてやる」
海賊たちは、無駄口をたたき続けたまま、攻撃を開始した。
8機の機兵がほとんど時間差なく飛び上がり、一斉にビームを放った。
ビームは歩哨に立っていた2機に集中した。
4本ずつのビームを受けた機兵は、何本かは外れたものの、武器を失い、足を貫かれた。
『次の寄港地で仕入れるんで楽しみにしててください!』
『哀れな貢ぐ君め』
帝国機兵がバランスを崩して倒れていく。
そこにシェリーの機体が全力で噴射させて襲い掛かり、手にしたビームカトラスが帝国機兵のバックパックに備えられている反重力機関をたたき割った。
『なんだと、俺は貢ぐことを許されてる分だけお前たちより上だぞ、言葉に気をつけろよ』
もう1機も同様に反重力機関を壊す。
これでこの2機は戦力外だ。
『これまでどれだけ貢いだのか考えてみろよ。本当に上なのはどっちかな』
『俺だな。貢ぎ続ければチャンスがあるからな』
残り2機はコックピットが開かれていて、パイロットが乗ってすらいない。
海賊たちは開きっぱなしのコックピットにビームを叩き込んだ。
『まぁがんばれよ』
『お前ら、待て。今考えるべきはガキをどうするかだ。すでにおかしらとシェリー姐さんが危ない。やばいぜ、これは』
『そうだな、もぐか』
終わりそうにない無駄話を聞き流しながら、シェリーはキティに襲撃成功の連絡を入れた。
襲撃成功。
連絡を受けたとき、キティたちは遺跡へ向かって飛んでいた。
赤いキティの機兵を先頭に4機が一塊になって飛んでいく。
遺跡はすでに前方に見えていた。
大きな建物がいくつも繋がっているように見える。縦にはさほど大きくないが、横への広がりはそれなりにあった。一つの町くらいはあるかもしれない。
その中央が広場のようになっていて、一つだけ背の高い塔のような建物があった。
「真ん中の建物に行くよ!」
キティが号令した。
その建物だけ異質なのだから当然の判断だろう。いかにもお宝がありそうに見える。
帝国軍の部隊もいない。
障害はない。
そのはずなのに、なぜかセツトは嫌な予感がした。体がざわつくような気がする。
結論を言えば、その予感は当たった。
遺跡のあちこちの建物の屋根が開いて銀色の何かが飛び出してきたのだ。
「なんだ?」
キティはすかさず機兵のカメラ画像を拡大した。
「剣?」
キティの言葉通り、セツトにもそれは剣であるように見えた。
鍔のない銀色に輝く両刃剣。それは物語で見るようなかつて地上で騎士たちが使っていたというロングソードに似ていた。
見たことのないものだった。帝国軍の兵器にあんなものはない。そもそも、あの形状のどこに動力や反重力機関が搭載できるのか。どうやって噴射もせず推進力を得ているのか。
全くわからない。
それが4本。
(まさか古代の兵器……?)
その切っ先がこっちを向いた。
海賊たちの機兵が回避機動を始めた。誰も命令を待たない。海賊たちの有能さがうかがえるようだった。
海賊たちが回避機動を続けながらビームライフルを構えた。
射撃。
その瞬間、剣が何かに弾かれたように一瞬で加速した。剣は海賊たちの放ったビームをかいくぐりながらこちらに向かい、一条の光となった。
セツトはモニターに映る一機を見ていた。
機兵が剣をぎりぎりまで引き付けてから『射線』から外れるように回避した。
見事な腕前だと思った。
剣を回避し、機体を翻させて、撃とうとしていた。素晴らしい戦闘技術だ。剣が高速で飛べば、遠心力で大きくしか曲がれないはずだ。必殺の攻撃がかわされた直後の隙がそこにあった。
剣の動きはセツトの予想を超えた。
速度を落とさず、鋭角に曲がり、海賊の機体に襲い掛かった。
だがそこは海賊が構えるビームライフルの射線上。ビームが放たれ、剣に向かっていく。
(そんな!)
セツトは信じられないものを見た。
剣の切っ先がビームを切り裂いたのだ。
剣は何事もなかったかのようにビームライフルに突き刺さり、それを切り裂いて、さらに勢いが衰えることなく機兵の腕までも断ち切った。
「こいつ!」
コックピットにキティの声が響いて、機体が揺れた。
セツトがコックピット内の情報を読むと、ビームライフルが失われていた。キティはすかさずビームカトラスを選択し抜き放った。
再び振動。
カトラスを振りかぶる暇さえなく、剣がカトラスを持つ手を斬り落とした。
勝てない。
剣が速いのではない。
物理法則を無視して自在に曲がる機動に対応できない。
「逃げるよ!」
キティが叫んだ。
機体を翻し、全力で噴射しようとした。
「……くそ」
その目の前に剣の切っ先があった。
撃墜される。
そう思ったが、剣は空中で静止していた。
「降参だ。こいつらに通じればいいけど」
キティは機体の両手を上にあげた。人間共通の降参ポーズだった。




