11 海賊が狙うもの
車は、信号を無視してできる限りの速さで町中を走っていく。
「お頭、機兵3機来てるようです」
またかかってきた電話に応答し、キュークが報告をした。
「騎士かい?」
「いえ、量産機のようで」
「援護させな」
「へい」
ほどなく、上空に3機の量産機兵が現れた。グレーに塗られた無骨な機体が、かすかに推進剤を噴射しながらこちらに向かってくる。
その手にはビームライフルが握られているが、撃とうという素振りはなかった。何しろ町中だし、セツトも乗っているのだ。
3機の量産機兵は、車の進路を塞ぐために回り込もうとしていた。
その機兵たちめがけて、一本のビームが空を裂いた。
ビームは機兵たちを外れ、ビルに当たることもなく、そのまま空へと消えていった。
機兵たちが慌てたように速度と高度をあげ、回避機動をとった。
「撃った……」
街中である。機兵に当たって撃墜していれば街に被害がでたかもしれなかった。
「街の外に一機潜ませてある。狙撃のうまいやつだ、当てやしないよ」
キティがセツトの不安を感じ取って教えてくれた。
「当てない?」
「そう。当てるのがうまいやつは、当たらないように撃つのもうまいもんさ」
なるほど、道理だ。
機兵たちは、車を追おうとするたびに一発二発とビームが撃たれ、追うことができない。
今、機兵が方向を変えなかったら当たっていたように見えたが。
(回避機動の先を読んで外したのか!)
恐るべき技量だった。あれでは撃たれた方は間一髪避けた、危なかったと思うだろう。
車は機兵たちに捕まることなく街はずれの駐機場へとやってきた。
全長10メートルから20メートルくらいの小型のシャトルが、道に沿って整然と並んでいる。
これらのシャトルは、遙か上空に停留している宇宙船と街を往復するためのものだ。大型の宇宙船は、重力圏からの脱出にエネルギーを使わないよう、いちいち重力のあるところまで降りてくることは少ない。
その中の一つのシャトルの前で車が止まると、セツトとキティ、それにキュークが急いで車から降り、そのシャトルに乗り込んだ。
「おかえりなさい、おかしら」
ひげ面の筋肉男が出迎えて、セツトをチラリと見た。
「変わったものを買いやしたね」
「ばか、この子は拾い物だよ。買い物はこっち」
キティは懐から赤く装飾された銃をとりだして見せた。
「はぁ」
筋肉男はセツトを頭からつま先までじろじろと値踏みした。
「どこまでかはともかく、船に乗せる。わかったね」
「おかしらのいつものお節介焼きすね。仕事は?」
「とりあえずあたしの隣」
「反対す。こんな綺麗なガキがお頭の横にいたんじゃ、あっしらお頭が取られちまうんじゃないかと気が気でなくなってしめぇます」
「ばか言ってないでとっとと支度しな。30秒で出せ」
「へい!」
筋肉男が操縦席へと飛んでいった。キュークもその後をついていく。
セツトはキティに連れられ、機体の後部へと向かった。
後部は一つの部屋になっていて、大きな1人がけのソファが向かい合わせで4つ、置かれていた。どれも真っ赤で、豪勢な作りをしている。
キティは外套を脱いでソファの一つに放り捨てると、別のソファに腰掛け足を組んだ。
「座んなよ」
セツトに自分の正面のソファを指し示した。
「はい」
セツトは言われるままに座った。
「さっきの騎士鎧、公爵家の紋入ってたわね?」
「婚約者だった、になると思います」
「そう」
シャトルが揺れ、地面から離れた。反重力機関が動き始めたのだ。シャトルはゆっくりと上昇していき、その後、噴射して加速した。すぐに街を覆う大気保持フィールドの外側にでて、真空空間に出た。
「この後は、船へ?」
セツトの問いかけにキティは首を振った。
「言ったじゃないか。一仕事するって。お宝を奪いに行くのさ」
船に戻らずにお宝を奪う。どういうことだろうか。
「この月の上に、古代の遺跡があるのよ。知ってる?」
セツトは首を振った。
「そもそも遺跡って何です?」
「この宇宙には、今より何千年以上も前に滅んだチキュレンパウという文明があったそうよ。その文明の跡は宇宙のあちこちにあるのだけど、その中にまだ生きてる設備もあるの。それが遺跡」
「生きている?」
古代の文明があったことについては聞いたことがある。そもそも帝国が宇宙に出ることになった経緯自体、それに関連している。しかしその文明の遺産でまだ生きているものがあるとは。
「えぇ。帝国だって活用しているじゃない。というか、今宇宙で生活できてるのは全部遺跡が生産し続けてるおかげよ。重力制御系や、超空間航行、騎士鎧もそうね。すべて遺跡から得たもので今ができてる」
俄には信じがたい話だが、キティがそんな嘘をつく理由はない。しかもこれから行くというのだから、疑っていても仕方ないだろう。
「それで、今回狙うそこには何が?」
「知らないわよ」
当然じゃない、とキティ。
「分からないから奪うの。ワクワクするわね?」
(しないよ?)
口に出す勇気はなかった。
「言いたいこと言っていいのよ」
笑顔が怖い。そう言われて素直に口にするなんて危険なことをできるわけがない。なんで僕の周りの女の子はみんな気が強いんだ。
そう思っていることはおくびにも出さず、セツトはほほ笑んだ。
「そんなこと言って、推測はしてるんでしょう?」
「何かの当てになるほどじゃないわ。帝国軍がずっと張り付いてるようだから、なにかの生産設備系じゃないか、ってことくらいよ」
「生産系?」
「そう。物が保管されてるだけの場所なら、漁って終わり。張り付いたりしないわ」
「なるほど。継続的に物が出てくる、生産されているから張り付いて回収し続けてるんじゃないか、ってことですね」
キティは頷いた。正解だ。
「ま、何が生産されてるのかは全く予測できないから、結局分からないのよ。何にせよ、古代の技術で作られたものならお宝であることは間違いないわ。ワクワクするわよね?」
キティはわざわざ二度目を言った。
「何が出るかのお楽しみってやつですね」
それなら分からないでもない。
「そう。早くも海賊の楽しさが分かってきたようね」
キティが、教師が生徒に満点を与えた時のような笑みを浮かべた。
『おかしら、そろそろお支度を』
室内にキュークの声が響いた。
それを聞いてキティはソファから立ち上がると、壁側に組み込まれた引き出しから何かを出して、セツトに向かって放り投げてきた。
キャッチ。
セツトが広げてみると、パイロットスーツのようだ。
「それ着替えて」
「まさか操縦ですか?」
「機体も用意してないし、さすがにさせないわよ。一緒に乗ってもらって、見てもらって、意見をもらうわ」
キティは別の引き出しから赤いパイロットスーツを取り出した。キティのものだ。
「だから何かあって死ぬときはあたしと一緒よ。うれしい?」
キティは蠱惑的に首を傾げた。
「まだ死にたくないです」
「あたしもよ。着替えてくるわね」
キティは言い残して奥の部屋へと消えて行った。
セツトはその場でパイロットスーツに着替えた。サイズはスーツの調節機能でフォローできるくらいで、ちょうどといってよかった。
シャトルが着陸する。
そこには、海賊たちの機兵20機ほどが待ち構えていた。
1機だけが赤く、ほかは黒い。とても分かりやすかった。




