第3話 影の侵入
しきは飛び起きた。
胸が苦しい。
涙が頬を伝っている。
「シオナ……」
そのとき——
コンコン。
窓を叩く音。
しきが振り向くと、
そこには——
深い青の外套。
金の刺繍。
夜の中でも輝く瞳。
ヴェイル=ラシェルド。
異世界の王太子。
彼は静かに、
しかし確信を持ってしきを見つめていた。
「……原典。
あなたに会いに来た」
しきは息を呑む。
「わたしを……知ってるの?」
ヴェイルは窓越しに膝をついた。
まるで神に祈るように。
「あなたは我々の世界の中心。
存在するだけで、世界を保つ“原典”。
あなたが揺らげば、世界は崩れる」
しきは震える。
「そんな……わたし、ただの高校生だよ……」
ヴェイルは静かに言う。
「あなたがどう思おうと、
世界はあなたを中心に回っている。
それが“原典”という存在だ」
その言葉は、
アーシャやシオナの言葉と同じだった。
しきは胸が苦しくなる。
「……わたし、怖いよ」
ヴェイルの瞳が揺れた。
「怖がらせるつもりはなかった。
ただ……あなたを守りたかった」
その瞬間、
部屋の空気が変わった。
アーシャがしきの前に立つ。
「……王太子。
勝手にしきに触れないで」
ヴェイルはアーシャを見て、
わずかに目を細めた。
「境界歩き……か。
原典のそばにいるのは、お前か」
アーシャは無表情のまま、
しかし声だけが鋭い。
「しきは、わたしが守る」
ヴェイルは静かに立ち上がる。
「守るだけでは足りない。
原典は“選んだ”。
異世界と関わると」
しきは驚く。
「……どうして知ってるの?」
ヴェイルはしきをまっすぐ見つめる。
「あなたの決意は、
世界中に響いた。
境界が震え、
魔力が流れ、
王城の塔が光った」
アーシャが息を呑む。
「……そんなに……?」
ヴェイルは頷く。
「だから私は来た。
あなたに会うために。
あなたの意思を……聞くために」
しきはゆっくりと息を吸う。
怖い。
でも——
逃げないと決めた。
「……わたし、異世界と関わる。
ちゃんと向き合いたい」
ヴェイルの瞳が、
静かに、深く揺れた。
「……ありがとう。
あなたのその言葉が、
世界を救う」
アーシャはしきの手を握りしめる。
「しき……」
しきは二人を見て、
小さく微笑んだ。
「わたし、ひとりじゃないから。
アーシャもいるし……
あなたも、来てくれたから」
ヴェイルは胸に手を当て、
深く頭を下げた。
「原典。
あなたの決意に、
この命を捧げる」
その瞬間、
窓の外の空が静かに揺れた。
まるで、
世界がしきの選択を祝福するように。




