第2話 先生の……むっつりすけべっ♡ かぷっ♡
「わぁー!! たっくさんお店があるわよ先生っ!!」
「……人間さんもいっぱい」
ここは近所の大型ショッピングモール。
日曜日ということもあって賑わっていた。
「二人ともっ、あんまり離れないようにねっ!」
私の両脇から「はーい!」と元気な声。
右手でカベラちゃんと、左手でフィランちゃんと手を繋いで、ゆっくりと歩いていた。
二人がこの世界でお出かけしたそうにしていたから、今日は私から誘ってみたのだ。
ずっとお留守番ばかりさせてるのも、つまらないだろうしね。
「二人は、吸血鬼の世界でもこうやってお出かけしてたの?」
「そうねっ! 色んな所に遊びに行くのは大好きよっ! ……でも」
「……お父様とお母様が、急にお外に出してくれなくなっちゃって」
急に二人の元気が萎んだようだった。
「なにか……あったの?」
「あたしたちもわからない……でもねっ、急に『今はこの城から出てはいけない。事が静まるまでは……』なんて訳わかんないこと言っちゃってさ!」
「……だからフィランたち、お城の扉から飛び出したの……そしたらせんせいのお部屋に出たの」
「そう、だったんだね」
すると二人は、ぎゅうっと手に力をいれる。
「もうお父様もお母様もしらないんだからっ!! あたしたちの話も聞いてくれないし!」
「……フィランもつまらないのは、いや」
お父様とお母様、つまり王様とお妃様ってことね。
「そっかそっか……」
私は足を止め、二人の方へ向き直った。
「どうしたのよ先生っ?」
「……? お腹すいたの?」
「あのねっ、二人はお父さんとお母さんのこと好き?」
すると二人は顔を見合わせ、不満げながらも頷いた。
「うん、ありがとう。でもね、それはお父さんもお母さんも同じだと思うんだ」
「お父様も……」
「……お母様も?」
二人は目を丸くする。
「なにがあったかは私にはわからないけど……二人が大切だから、理由があるんじゃないかな?」
「そう……なのかな」
「……フィランたち、いけないことしちゃった……?」
「お外に出たかったって思うことは、なんにも悪いことじゃないよ。でも、なにも言わずに家出しちゃったら、ご両親も心配してると思うの。だからね……」
私は二人の手を優しく握り直す。
「お家に帰れたら、勝手に飛び出しちゃったことはちゃんと『ごめんなさい』しようね?」
二人は見つめあって、大きく頷いた。
「うんっ! ちゃんと伝えるわ!」
「……ちゃんとごめんなさいって言う。お父様とお母様、大好きだから……」
「よしっ、約束ね! じゃあ今日は遊びたおすよーっ!!!」
「いえーい!!♡」
「……いぇーい」
また二人と手を繋いで楽しく歩き始める。
雑貨屋やお菓子屋、ゲームセンターなど、目に入るものすべてが珍しいのか、二人の好奇心はつきなかった。
そんな二人に引っ張られるようにあちこちを見て回っていると――
「あっ……」
「……わぁ」
ふいに、二人がとあるお店の前で足を止めた。
「ここのモールにもあったんだ、ガールズファッション専門のお店」
そういやテレビのCMで見たことあったなぁ。
たくさんのジャンルのガールズファッションが集まってるお店だったっけ。
「せっ、先生!! ここ入りたいわっ!」
「……フィランもっ。わくわくっ」
二人は目を輝かせながら私を見つめる。
「いいわよ。行きましょ!」
そして三人でお店へ入ると、カベラちゃんたちはそれぞれお洋服を見つけに走り出した。
それにしてもお店の中は本当にたくさんの服が揃っていて、とても迷ってしまいそうだ。
……まっ、アラサーの私には若すぎる服ばっかりだけどね。ははっ。
「……せんせいっ。あれ取りたいっ」
するとフィランちゃんがやってきて、お店の高いところにあるフリフリのお洋服を指差した。
「結構高いとこにあるのね、ちょっと待ってて」
私は、店内に置かれた踏み台を持ってきた。
すると自分で取ると言わんばかりに、踏み台に上がる。
「……んーっ、あとちょっと……」
「フィランちゃん? 届かないなら私が取って――っ!?」
その時、気づいてしまった。
フィランちゃんのスカートの中が、ま、丸見えになっていることに!?
普段着の漆黒のドレスの中は真っ赤なおパンツなのって、ち、ち、ちょっとセクシーすぎない!?
「……もうちょっと……」
さらにフィランちゃんが、ぐいっと背伸びをした時だった。
ぐらっ。
「……あっ」
「えっ」
フィランちゃんの体勢が崩れて――
ふにゅんっ。
「……っ――!!!♡」
真っ赤なおパンツに包まれた柔らかいお尻が、視界を覆った。
ふ、ふふ、ふわっふわの柔らかいおし、お尻の感触が……なんか良い匂いも、し て、……あ、やばいわカスミ、意識が――
「……あっ、あっちも可愛いっ。よいしょっと」
するとフィランちゃんは違うお目当てを見つけたのか、すたすたと走り去っていった。
「……ふわふわ……でへっ……」
「みぃーちゃったっ、先生♡」
背後からの声に、肩がビクンッと跳ねた。
「ふぇ!? カベラちゃん!? イッタイ、ナンノコトカナー??」
「ランちゃんのお尻、そんなに気持ちよかったんだぁ?♡ お耳まで真っ赤にしてぇー♡」
「ちっ、違うわ!! そんなえっちなこと考えてなんか!!」
するとカベラちゃんは耳元に顔を近づけてきて……。
「先生の……むっつりすけべっ♡ かぷっ♡」
「おっほぉぁ!?♡」
耳元で囁かれながら、耳たぶを甘噛みされて――
「あばぶっ!??」
暴発しそうになった鼻血を、なんとか両手で押さえた。
「あはっ♡ よく耐えたねっ、せーんせいっ♡」
カベラちゃんは目を細めてわるーい笑顔をしていた。
……この子はほんとにっ……!!
そんなこんなで、試着室に集合した私たち。
「行くわよーっ! まずは私からっ!!」
カベラちゃんの声と共に試着室のカーテンがばっと開かれる。
「ぎゃーー!♡ だぼだぼなスウェットとブーツでストリートガーリーねっ!♡」
「ふふーん! どう先生? 可愛いでしょ♡」
カベラちゃんは得意げに舌をちろっと出してウィンクをする。
スウェットは膝上まで隠れるくらいだぼだぼなので、そこから見える生足にそそられちゃう……!
「可愛いわっ!! とっても!!!♡♡♡」
するとまたカーテンは閉じられ――
「……次はフィラン。 じゃーん」
今度はゆっくりとカーテンが開かれる。
「わ゛ーー!!♡♡ フィランちゃんは、真っ赤でフリフリなゴスロリなのねーっ!!♡」
「……せんせぇ、フィランもかわいい?」
「可愛い可愛いっ!♡♡♡ 最高ぉお!!♡」
はぁはぁ……まずいわっ。こんな可愛いを浴び続けてたら、公衆の面前なのにあばばってしまうわ……!!
――そんな私をよそに。
「まだまだ行くわよーっ!♡」
「……わよーっ」
二人のファッションショーは、まだまだ続く。
ゆめかわ、チャイナ、原宿系――次から次へと可愛いが押し寄せてくりゅうううう!!!!
「ふっ……二人とも、世界一可愛いわっ……。気に入ったお洋服あったら全部買ってあげちゃうわ……ふふふっ♡」
我ながら怪しい笑みを浮かべながらクレカを取り出す。
「なんか怖いわよ、先生……」
「……危ない人?」
フィランちゃん、多分間違いないわ。
そしたら二人は、「うーん」としばらく頭を悩ませる。
「どれも可愛かったけど……先生は、なにが似合うと思う?」
「……フィランも気になるっ」
「えぇ? 二人とも全部似合ってたけど……」
ふと、お店の中を見渡す。
「……あらっ」
その中でピンとくる物を見つけて、カベラちゃんたちに渡す。
そして――
「どう、かしらっ。先生っ?」
カベラちゃんがスカートの裾をつまんでみせる。
「……わぁ。ベラお姉様もフィランも、すっごい綺麗っ」
開かれた試着室のカーテン。
着替え終わった二人はまるで……。
「……天使が舞い降りたのかしら」
二人の深紅の髪を引き立てるような、真っ白なロングワンピース。
私の目に狂いはなかった。
「先生ったらこういうお清楚なのも好きなのねっ。むっつりのくせに♡」
「……むっつり? でもこれ、とってもすてきっ」
すると――
「先生っ! これにするわっ!♡」
「……せんせいっ。これがいいっ」
二人は仲良く、笑顔を私に向けた。
◇
楽しい買い物も終わり、せっかくだからと外のレストランでお夕飯を済ませた私たち。
家に帰ってきてお風呂を済ませると、あとはもうおやすみをするだけだった。
「じゃあ、二人とも電気消すねー」
パジャマに着替えたカベラちゃんとフィランちゃんの「は〜い」という声が重なる。
さすがに疲れちゃったみたいで、昼間ほどの元気はなかった。
「よいしょっと、ってわぁ!」
横並びに敷いた三人分の布団の真ん中に寝ると、両脇を陣取るように二人が距離を詰めてきた。
「ふふっ。先生、今日はとっても楽しかったわっ」
「……フィランも、たのしかった……むにゃ……」
「よしよし。私も今日はとっても楽しかったわ。ありがとうねカベラちゃん。フィランちゃん」
二人のさらさらの頭を優しく撫でる。
……でも私は一つ気になっていた。
「……ねぇ二人とも、本当によかったの? 一着だけで?」
「もちろんよぉ……なんたって先生が『あたしたちに似合う』って選んでくれた一着だもん……とぉっても気に入ったわっ♡」
「……まっしろのワンピース、ベラお姉様とお揃いで……フィラン嬉しい……大切にする……」
私は全部買ってあげる気でいたけど、二人はあの真っ白のワンピースが気に入ったみたいでそれ以外は欲しがらなかったのだ。
「えへへっ。ランちゃん、次はあのワンピースでお出かけしようねっ♡ とっても……楽しみだわ……すぅ」
「フィランも……ベラお姉様と……いっしょ……くぅ……」
二人は寝息を立てて、すやすやと寝てしまった。
「おやすみ二人とも、よいしょっと」
風邪をひかないようにと、二人に掛け布団をかける。
さて、私も明日からの労働に備えて寝ないとなぁ……。
「……様ぁ……」
あら、寝言かしら?
でも、ちょっとうなされているみたい……。
「……お父様……お母様……」
「……さみしい……うぅ……」
すると二人は、小さくうずくまっていた。
……そうだよね。急に知らない世界で二人ぼっちになっちゃってるんだから。不安で、心細くて当たり前だ。
「……大丈夫。ここにいる間は、私が絶対守るからね」
私は二人を起こさないように優しく抱き寄せる。
すると心なしか、二人の表情が和らいだ。
「……ふぁぁ」
二人の体温が心地よくて、私も眠気の限界が来たようだ。
そして誘われるままに目を閉じる。
うつらうつらし始めたら、今日の二人の可愛いファッションショーが夢の中に出てきた。
やっぱり二人はお姫様なだけあって、なに着ても似合ってたなぁ。
……ショッピングモールだと我慢したけど、夢の中なら……いいよね?
うふふっ……あばっ……あばばっ♡♡♡――
◇
「……なさい! ……わよっ!」
誰かの呼びかける声と、カーテンから差し込む朝日で目が覚める。
あれ……でも体が全く動かない? なんで?
「先生!! もう起きないと遅刻するわよっ!! っていうか、とんでもないことになってるわよ!」
意識がはっきりしてくると、カベラちゃんが私の体を揺さぶっていた。
「……お目覚めの血……おいしい。ぺろっ」
するとフィランちゃんは私の口元をぺろぺろと舐めている。
なんとか目線を自分の胸元まで向けると、着ていたパジャマが真っ赤に染まっていて、生温かった。
……ああ、そっか。
「私、寝てる最中にあばばったのね……がくっ」
「ちょっと待ちなさいよ先生!! ランちゃんも血を貰ってる場合じゃないわよ!!」
「……血、あったかい……すやぁ……」
「二度寝しないで! ランちゃん!! もーっ!!」
二人のやり取りが、だんだん遠くなる。
そして私は人生で初めて、仕事に遅刻したのであった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
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