第9話 限界
六時間が過ぎた。
カプセルの内部温度は空調の限界に近づいていた。全員が汗をかいていた。キムはシャツの袖をまくり上げ、モニターを睨み続けていた。カルロスは無言で外壁の状態を確認し続けていた。
「深度四千八百メートル」キムが言った。「あと千二百だ」
「外壁の状態は」イワノフが言った。
「ギリギリだ」カルロスが答えた。「保つか保たないか、五分五分だ」
「保つ方に賭けよう」イワノフは言った。
「根拠は?」
「ワシの設計だ。それが根拠だ」
その時だった。
衝撃が来た。
カプセルが激しく揺れた。全員が座席から体を浮かせた。マックはベルトで体を固定したまま、壁に頭を打ちつけた。キムのパソコンが床に落ちた。
「何が起きた」ジャックが言った。
「岩盤だ」カルロスが叫んだ。「予想外の硬い層にぶつかった」
掘削ビットの音が変わった。高い金属音が狭い空間に響いた。カプセルが止まりかけていた。
「ビットが限界だ」カルロスが言った。「このままじゃ止まる」
「爆薬は」マックが言った。
カルロスがマックを見た。「使えば道は開く。でも衝撃でカプセルが」
「どのくらいの確率で持ちこたえる」
「六割だ」
「残り四割は?」
カルロスは答えなかった。答えは明白だった。
マックは全員を見渡した。ジャックが頷いた。レイラが静かに目を閉じて、また開いた。キムが床からパソコンを拾い上げながら「やるしかないだろ」と言った。イワノフは操作パネルに向き直りながら「衝撃に備える」と言った。
「カルロス」マックは言った。「頼む」
カルロスは立ち上がった。狭いカプセルの中を移動して、底部のパネルを開けた。爆薬のセットに一分もかからなかった。この男の手だけは、いつでも迷いがない。
「全員、姿勢を低く」カルロスが言った。
全員が体を縮めた。
爆発音は思ったより小さかった。でも衝撃は大きかった。カプセルが激しく揺れた。金属が軋む音がした。マックは目を閉じた。
一秒。二秒。三秒。
カプセルは、持ちこたえた。
掘削ビットの音が戻った。今度は滑らかだった。岩盤を抜けた。カプセルが再び動き始めた。
キムがモニターを確認した。「外壁、損傷なし。全システム正常だ」
誰かが息を吐いた。カルロスがゆっくりと戻ってきて座席に座った。普段通りの無表情だったが、手が少し震えていた。
「カルロス」レイラが言った。
「何だ」
「ありがとう」
カルロスは何も言わなかった。でも口の端が、わずかに上がった。
「深度五千三百メートル」キムが言った。「七百だ」
マックは前を向いた。赤い光が窓の外で揺れていた。地球の熱が、もうすぐそこまで来ていた。
「ロシア側は」マックが言った。
キムが確認した。顔色が変わった。
「同じ深度だ」キムは言った。「向こうも今、降下中だ」




