第8話 降下
夜明けと同時に、六人はカプセルに乗り込んだ。
内部は狭かった。六人が向かい合って座ると、肩が触れ合うほどだった。イワノフが操作パネルの前に座り、キムが隣でモニターを確認した。カルロスとレイラは出入口に近い席に座った。マックとジャックが奥だった。
ハッチが閉まった。
外の音が消えた。
「全システム確認」イワノフが言った。
「異常なし」キムが答えた。
「掘削ビット、起動」
低い振動が足元から伝わってきた。カプセルが生きている感触だった。イワノフが事前に掘った縦穴の入口に、カプセルが据えられていた。アイスランドの薄い地殻の下、自然の空洞へ続く道だ。
「降下開始」
カプセルが動いた。
最初はゆっくりだった。暗闇の中を落ちていく感覚。窓の外、岩肌が流れていった。茶色から黒へ、黒からさらに深い色へと変わっていった。
「深度五百メートル」キムが言った。「温度、上昇中」
「想定内だ」イワノフは言った。「まだ序の口だ」
一時間が過ぎた。
「深度三千メートル」
外の岩肌が赤みを帯び始めていた。温度計が上がり続けていた。カプセルの内部は空調が効いていたが、それでも空気が重く感じた。
キムが額の汗を拭った。「なあ、これ本当に大丈夫なのか」
「大丈夫だ」イワノフは言った。「理論上は」
「その言葉、何回聞いたと思ってる」
「科学とはそういうものだ」
カルロスが無言でモニターを見ていた。突然、眉をひそめた。
「イワノフ、外壁の温度を見ろ」
イワノフが数値を確認した。一瞬、老人の表情が固まった。
「想定より速い」イワノフは静かに言った。「地殻の密度が計算と若干違う」
「若干?」レイラが言った。
「十二パーセントほど」
「それは若干とは言わない」キムが言った。
振動が強くなった。カプセルが揺れた。マックは座席のベルトを握り直した。ジャックが壁に手をついた。
「どうする」マックは言った。
イワノフは操作パネルに向き直った。皺だらけの手が、素早くキーを叩いた。
「掘削速度を落とす。その分、外壁への負荷が減る」イワノフは言った。「時間がかかるが、到達はできる」
「どのくらい遅れる」
「六時間ほど」
「ロシア側は?」マックはジャックを見た。
ジャックはキムに目を向けた。キムが衛星通信で確認した。
「ロシア側、予定より早く動き始めてる」キムの声が低くなった。「今のペースだと、ほぼ同着になる」
誰も何も言わなかった。
カプセルが揺れ続けていた。外壁が赤い光を放ち始めた。地球の熱が、少しずつ近づいていた。
マックは目を閉じた。サラの声が耳に残っていた。
信じてる。
「行くしかない」マックは言った。「速度を落としても、止まるな」
イワノフは頷いた。「もちろんだ」
カプセルは降り続けた。地球の心臓へ向かって、六人を乗せたまま。




