第10話 到達
「深度六千キロ、コア外縁層まで残り百メートル」
キムの声が掠れていた。
カプセルの外は完全な赤だった。窓越しに見える世界は、まるで地球の血液の中を泳いでいるようだった。温度計は振り切れる寸前で止まっていた。空調が悲鳴を上げていた。
「持つか」マックがイワノフに言った。
「持つ」イワノフは言った。今度は根拠を言わなかった。でも誰も聞かなかった。
「残り五十メートル」
全員が黙っていた。息をするのも忘れるような沈黙だった。
「残り二十メートル」
カプセルが止まった。
着いた。
誰も動かなかった。誰も言葉を発しなかった。地球の核心、六千キロの地下。人類が一度も到達したことのない場所に、六人の使い捨ての男と女がいた。
イワノフが計器を確認した。老人の目に、何かが光った。
「金だ」イワノフは静かに言った。「コアの外縁に、金の層がある。計算通りだ。四十年前から、わかっていた」
キムが採取装置を起動した。自動的にサンプルが収集された。純度の数値が画面に出た。キムが口笛を吹いた。
「本物だ。とんでもない純度だ」
その時、通信装置が鳴った。
見知らぬ周波数だった。キムが眉をひそめた。「ロシア側からだ」
全員の視線が集まった。マックは頷いた。キムが繋いだ。
ロシア語と英語が混じった声が聞こえた。
「我々も到達した。あなた方より三分遅れで」
マックは通信装置を手に取った。「それで?」
「我々は政府の命令で動いている。あなた方は?」
「俺たちは俺たちの理由で動いている」
短い沈黙があった。
「金は両国のものになるべきだ」ロシア側の声が言った。「争う必要はない」
マックはジャックを見た。ジャックが小さく頷いた。レイラが腕を組んだ。カルロスは無表情のまま。キムが肩をすくめた。イワノフが静かに言った。「マック、決めるのはお前だ」
マックは通信装置を置いた。
そして別の通信を繋いだ。国家安全保障局への直通回線だった。昨日キムが割り出していた番号だ。
数秒後、あの感情のない声が出た。
「ハント氏、到達したのですか」
「ああ」マックは言った。「条件がある」
「お聞きします」
「サラを今すぐ解放しろ。俺たち六人全員の命の保障。生涯の生活保障。書面で。それが先だ。確認が取れてから、金の座標を渡す」
沈黙が続いた。
「それを飲まなければ?」
「ロシア側と山分けする」
また沈黙があった。今度は長かった。
マックは待った。焦らなかった。カードはこちらにある。それだけで十分だった。
「承知しました」
声が言った。




