第5話 設計図
イワノフがファイルを広げた。
図面がテーブルいっぱいに広がった。数字と線が複雑に絡み合っている。キムが身を乗り出して見た。レイラは腕を組んだまま、静かに目を細めた。
「地球のコアまでの距離は約六千キロ」イワノフは言った。「温度は六千度。圧力は地表の三百万倍。普通なら到達不可能だ」
「普通なら、か」カルロスが言った。
「そう。普通なら」イワノフは指で図面をなぞった。「だがワシは四十年考え続けた。ソ連時代から。答えはここにある」
老人が指差したのは、地図上の一点だった。
「アイスランドだ」
「アイスランド?」キムが眉を上げた。
「地殻が世界で最も薄い場所の一つだ。火山地帯の地下には、すでに自然の空洞がある。そこを起点に掘る。距離が縮まる。そして――」イワノフはファイルから別の図面を出した。「特殊な掘削カプセルを使う。外壁は新素材、熱と圧力に耐える。ワシが設計した」
「本当に耐えられるのか」レイラが言った。
「理論上は」
「理論上」レイラが繰り返した。
「科学とはそういうものだ」イワノフは肩をすくめた。「やってみなければわからん。だが計算は正しい。ワシの計算は、いつも正しい」
キムがノートパソコンを開いた。「国家のシステムに入る。現状を確認する」
数分後、キムの顔が険しくなった。
「まずいな」キムは言った。「ロシア側、すでにアイスランドに人員を送り込んでる。二週間以内に掘削開始する予定だ」
沈黙が落ちた。
「二週間」ジャックが言った。「先を越される」
「動くなら今だ」カルロスが言った。
その時、マックのポケットで電話が鳴った。全員の視線が集まった。見知らぬ番号だった。マックは出た。
「ハント氏」あの声だった。「約束通り、お繋ぎします」
短い間があった。
「マック」
サラの声だった。
マックは動けなかった。声だけで、サラがそこにいる気がした。十五年分の記憶が一瞬で押し寄せた。
「サラ」
「私は大丈夫」サラの声は落ち着いていた。怖がっていなかった。怖がっていないふりをしているのかもしれなかった。でもマックには関係なかった。声が聞けた。それだけで十分だった。「あなたは?」
「大丈夫だ」
「嘘ね」
マックは少し笑った。十五年、この女には嘘が通じたことがない。
「すぐ迎えに行く」
「わかってる」サラは言った。「信じてる」
電話が切れた。
倉庫が静かだった。全員がマックを見ていた。マックはゆっくりと顔を上げた。
「二週間で行く」
誰も反論しなかった。
イワノフが図面を丸めて革のカバンに戻した。「では急ごう。年寄りをあまり急かすな、と言いたいところだが、今回は急ぐ」
カルロスが立ち上がった。レイラが外套を羽織った。キムがパソコンを閉じた。
マックは最後にもう一度だけ、テーブルの上の地図を見た。
アイスランド。地球の果て。そこから六千キロ下に、サラを取り戻す切り札が眠っている。
行くしかない。それだけだ。




