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CORE  作者: 北小松 耕作
2/12

第2話 脅迫


電話が鳴ったのは、昼過ぎだった。

マックはその間ずっとソファに座っていた。サラの本を手に持ったまま、ページを一枚も捲らずに。警察には通報した。担当の刑事は「72時間様子を見てください」と言った。マックは受話器を置いて、それきり動けなかった。

見知らぬ番号だった。

「ハント氏」

昨夜と同じ声だった。感情のない、事務的な声。

「サラはどこだ」

「ご安心ください。今のところ、無事です」

今のところ。

マックは受話器を握る手に力を込めた。壁に叩きつけたかった。でも動かなかった。怒りを外に出せば、向こうの思う壺だとわかっていた。

「何が望みだ」

「昨夜お伝えした通りです。ハント氏の技術が必要なんです。それだけです」

「サラを返せ」

「任務が完了すれば、必ず」

沈黙が落ちた。窓の外で風が木の葉を揺らしていた。マックはゆっくりと息を吐いた。

「条件がある」

「お聞きします」

「サラが無事だという証拠を毎日寄越せ。声でいい。それだけだ」

短い間があった。

「承知しました」

電話が切れた。

マックはしばらくそのまま立っていた。受話器を持ったまま、どこも見ていない目で。

どうせ俺は使い捨てだ。

ずっとそうだった。国家に呼ばれるたびに、消耗品として現場に放り込まれた。終われば報告書一枚で終わり。感謝もなければ謝罪もない。それでも黙ってこなしてきた。サラがいたから。帰る場所があったから。

その場所が、今はない。

マックはコートを手に取った。行く当てなどなかった。それでも家にいることができなかった。冷めたコーヒーが二つ、キッチンのカウンターにまだ置いてあった。

外に出ると、空は低く曇っていた。

足が勝手に動いた。路地を抜けて、大通りを渡って、古い煉瓦造りのビルの地下へ続く階段を降りた。看板もない、常連しか知らない薄暗いバーだった。昔、よく来た場所だ。仕事が終わるたびに、一人で飲んだ場所だ。

カウンターに座って、バーボンを頼んだ。

グラスが来た。マックは飲まずに、ただ見ていた。琥珀色の液体の中に、サラの笑顔が見えた気がした。信頼の笑い。昨夜の、あの笑いが。

「久しぶりだな、マック」

隣から声がした。

マックはゆっくりと顔を上げた。

カウンターの端に、見覚えのある男が座っていた。少し老けた。髪に白いものが混じっている。でもその目だけは変わっていない。砂漠で死にかけていたあの夜も、同じ目をしていた。

ジャックだった。


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