95.初めての成功
大人二人から仮死薬作戦の協力を取り付けた私は、これまで以上に魔力を上げる訓練に取り組んでいた。
何をおいても、とりあえず鏡をオレンジにしないことには始まらない。
満月補正で黄色になることを願うにしても、今の私じゃまず無理だ。
絹糸にマシュマロを押し込む、というわけのわからない感覚を次第に身に着け始めて数日。
目に見えて鏡の色に変化が表れてきた。
「こ、これはオレンジ?かも??」
赤みがかかったオレンジではあったけれど、初めて見る色に私は嬉しくなる。
「ちょっと調剤、試しちゃおうかなぁ」
古い調剤道具をそっと取り出すと、私は早速カプセルを準備した。
この三日間、あえて触っていなかったので、ちょっとドキドキするなぁ。
私は深呼吸をすると、慎重に魔力を流し始めた。
すると、初めてカプセルに魔力が上手く流れ始めた。
集中集中!
喜びでコントロールを失わないよう、「マシュマロ、圧縮、マシュマロ、圧縮……」と念じながらカプセルを見つめる。
あっという間にカプセルは美しい青に染まっていった。
どうしよう、もっと先まで進めちゃう?
いや、ちょっとやめよう。
欲張って割れちゃったら悲しすぎる。
私はそっと手を離すと、古い調剤道具にはまっているカプセルを取り出してみた。
「……できた……!」
透き通った美しい青のカプセルがきらりと光って見える。
これを精製水に入れればポーションになるはずだ。
ドキドキしながらカプセルを、精製水にポトンと落とし込む。
しゅわっと美しい青がきらめき、みるみるうちにとけて透明になった。
「色はつかないのね」
私は瓶をあちこちから眺めると、出来上がったポーションをほんの少し飲んでみる。
「!!あまい!!」
びっくりするほど甘かった。
いつも私が作るものよりも格段に甘い。
こんなにも違うの?
私は早速出来立てのポーションをもって薬局長に報告へ行くのだった。
「……これはすごい。今で言うハイポーションくらいの効果はありそうですね!たぶんあなたの魔力が、凝縮されて入ってるんでしょう」
ワクワクした表情で薬局長は言った。
「これ、ルカ君に飲んでもらいます?」
「え!?でも……耐性がついちゃうから……」
「一口くらいなら良いですよ。あなたのポーションの効果を一番知っているのはルカくんですしね」
そう言って薬局長が笑う。
「それじゃあ夕方の測定、今日は特別にクレアさんお願いします」
「えぇっ!?」
「仮死薬の件、ちゃんと反省の姿を見せておいてくださいね?
『万能薬だけおとなしく作ってます』ってしおらしくしていてください。間違っても、僕らが絡んでることは言わないように」
そうか!
もうここから作戦は始まっているというわけですね?
私が『仮死薬をあきらめた』という演技をしっかり見せつけないと!
「……わ、わかりました!がんばります!」
急にドキドキしてきた私は、薬局長が「まぁ、それは建前なんですけどね~」と笑ったことに全然気づいていなかった。
そして、夕方、久しぶりにルカへの特別調剤に来た私。
緊張しすぎて吐きそう。
「あぁ、そうだった。この待ち時間が地味にきつかったのよ!」
一人医務室でうろうろする私。
すると、その時トントンとドアがノックされた。
「失礼します」
そう言って黒髪のルカが入ってきた。
彼は私を見た瞬間驚いて目を丸くし、固まった。
「クレア?」
「あ、どうも」
思わずそんなことを言って、頭をぺこりと下げる。
「え、どうして?薬局長は?」
「今日は特別に、私がやることになったの」
「……でも、俺達、接近禁止だろ?」
「うん、そうなんだけどね、今回だけちょっと特別で」
私はそう言って、ルカを椅子に座るよう促した。
彼は戸惑いつつも、言われるがまま椅子に座る。
「あのね、お祭りの日に古い調剤道具を見つけたでしょう?
あれを使って初めてポーションが作れたの!それで、ルカに一口だけなんだけど飲んでもらいたくて……」
私がそう言ってポーションを取り出すと、ルカはじっとそれを見つめた。
「……これ?あの古い機械で作ったの?」
「うん。すっごく難しくてね、今まで失敗ばっかりだったの。やっと今日カプセルに魔力が入ったんだよ」
「すごい……。あのおばあさん、すごく難しいって、できるわけないって言ってたのに……クレアすごいね!」
ルカは心からそう思ってくれているようで、目を輝かせている。
「万能薬にはまだ少し時間がかかりそうだけど、絶対作って見せるから、もう少し待っててね!」
私はそう言いながら、「まずは測定だよね」と彼の腕に測定器を巻き付ける。
久しぶりにルカの腕を見た瞬間、思いきりドキッとしてしまった。
あぁ、もうやだ。
こんなところで、お祭りで抱きしめられたことを思い出してしまう私は、本当にどうかしている。
「?どうしたの?」
頭をぶんぶん振った私を、ルカが首をかしげながら見ている。
今私が考えてしまったことなど、一生気づかないでください!と思いつつ、「ごめん、なんでもない」と普通を装った。
測定値が出たので、紙に記録してから測定器を外す。
腕はさっさとしまってもらうに限る。
私の思いを知ってか知らずか、彼は袖を降ろしながら言った。
「クレア。万能薬だけ作ってるよね?他に変なもの作ってない?」
「変なもの?」
「……仮死薬とか、そういうの」
来た。
ルカからそれを言ってきたわね!
「うん、ごめんね。あの時は、ちょっと思いついちゃっただけなの。もう今は万能薬一筋だよ。ポーションも成功したし、絶対に万能薬で解呪できるって思ってるから……だから安心してね!?」
そう言い切った私。
ルカはじっとそんな私を見ている。
……まずい、変に力が入りすぎたかしら?
バレる?嘘だってわかっちゃうかな??
ドキドキしながらルカを見ていると、彼が言った。
「うん、わかった。信じる」
その言葉にホッとすると、さらに彼は続けた。
「クレアが危ない目に遭うのは、絶対に嫌だから。……万が一、変なことが起こったら、俺たぶん、ぜんぶ灰に変えると思う。俺の命が削られてなくなるまで全部、ね」
「え……」
「だから、もう変なこと考えないでね?」
「あ、はい……」
冷や汗が止まらないんですけど……!
ルカ、こんな怖いこと言う人だったの!?
黒髪だけれど、ものすごく綺麗に笑ってそういうルカは、やっぱりあの金髪ルカと同じ人なんだと改めて気づかされた。
子犬系だと思ってた黒髪のルカに、私は引きつり笑いを浮かべるしかない。
これ以上はちょっと無理だ。
なんか全てがバレる気がする。
何か言うと私がぼろを出すに決まってるので、さっさと薬を飲んでもらおう!




