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陰キャの僕にも拒否権を与えてもらえませんか? 〜陽キャ女子の距離感がバグってて、逃げ場を封じられたのだが?〜  作者: 古治
文化祭編

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第96話 その代わり

「もう、仕方ないや」


 下校中、栞凛はどうにか、開き直ろうとしていた。それも、完全ではない。どうにか、気を正そうとしていた。重たい雰囲気を、引きずりたくなかったんだと思う。


「私が勉強サボったんだもん。自業自得だよね⋯⋯」

「いや、頑張ってたよ、栞凛は。もちろん、遅かった、けど、やり始めた。ちゃんとした、目標を持って」

「——大輝くん?」


 栞凛が何か言っている気がするが、無視する。


「どうせ、やってないやつもいる。だけど、栞凛はやった。それだけで偉い、と、僕は思うんだ」

「大輝くん——」


 栞凛がそう言いながら、僕に抱きついてきた。

 ——今日も(・)、受け入れてやるか。


「こんなときだけど、渡したいものが、あって」

 

 僕はそんな重たい雰囲気を振り切るため、何より、さっき僕が言った言葉を忘れさせるため、僕は袋を取り出した。


「ふふっ、嬉しい。なんだろうな」


 どうせもう、なんとなくわかってるくせに。

 栞凛はそれを濁そうとしていた。多分、期待を膨らませようとでも、してるんだろ。


「これ、バレンタインのお返し。いいものじゃないけど、受け取ってほしいな」


 僕はカバンの1番上に、傷つけないように置いたマカロンを取り出した。これだけのために、このカバン、洗ったんだぞ。


「あ、あ、ありがと」


 栞凛の顔は、湯気が吹き出そうなほど、真っ赤になっていた。


「栞凛のために、僕が選んだんだ。調べて、買いに行って⋯⋯」


 まるっきり嘘だ。

 僕は、母親にそう教え込まれていた。



 ******



 ちょっと戻って、公立入試の次の日。


「大輝! 渡すんだったら、練習しておきなさい」

「え〜。別によくない?」

「あんたならやらかしかねないからね」


 どうやら僕はやらかしかねないみたい。しらんけど。


「え? で、何を言えばいいの?」

「とりあえず、その子のために、買ってきたよって。僕が買ってきたんだよって。口が裂けても、母親が買ったなんて言っちゃだめよ?」


 うわ⋯⋯。僕なら言いかねないなぁ。


「それで、バレンタインのお返し。いいものじゃないけど、受け取って、って」

「は〜い」


 危ないなぁ。また、あのバレンタインのときみたいになるところだった⋯⋯。


 ——みたいなことが、あった。



 ******


 

 「ふ〜ん? 大輝くんが、私のために、ねぇ?」


 栞凛が僕の顔を覗き込んできた。やばい、バレた、か⋯⋯?


「私は、大(・)輝(・)く(・)ん(・)の(・)言(・)葉(・)で(・)、聞きたいな」


 わざとらしくあざとい笑顔を僕に向けてきた。

 ——多分、バレてる。

 

「えっと、その、僕が、調べて——」

「大丈夫。あのときみたいには、怒らないから。その代わり——」


 栞凛は人さし指を自分の頬に一瞬だけ触れさせると、こう言った。


「覚(・)悟(・)、しておいてね?」


 栞凛がそう言ったとき、僕は背筋がヒヤッとした。それどころか、全身がゾクッとしたよ。あー、怖い怖い。


「早く、本当のことを言って? 私、怒らない。これだけは、約束する。機嫌悪くなんか、しないから」


 ——やっぱ、バレてる。絶対。もう、諦めるか。


「母親に、買えって、連れて行かれて」

「⋯⋯やっぱり大輝くんらしくないと思ったもん」

「中身も、全部おまかせにして」


 僕は、もう諦めて、全てを正直に話すことにした。


「僕は本当に、何もしなかった。外装も、全部母親が選んでくれた」


 栞凛は、思っていた以上だったのか、ポカンと間抜けそうな顔をしていた。


「⋯⋯ふ〜ん。思ってた以上だったけど、いいよ。許してあげる」


 そこで栞凛が見せた、満面の笑み——それが、僕には恐怖でしかなかった。

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