第97話 終わりと始まり
「只今より、卒業式を始めます」
スピーカーから、人の声が聞こえる。
生徒全員が礼をした。揃っていて、きれいだと思う。
「着席してください」
そう聞こえると、みんなは一斉に座った。
「赤田澪!」
「はい!」
1番最初の人が呼ばれた。
ステージに入るとき、ちゃんとお辞儀をしてから入る。
⋯⋯最初の人は、大変だなぁ。
その後も、次々生徒が呼ばれて、みんなが向かっていく。
「徳村大輝!」
「はい」
僕は呼ばれて、椅子を立ち上がった。
卒業証書を受け取りに、僕は壇上へ上がる。校長先生が、僕へ直接、卒業証書を渡してきた。
そして、段々呼ばれていった。
最後の人になった。
「渡瀬栞凛!」
「はいっ!」
元気な返事が聞こえるなぁ⋯⋯ん? 栞凛? 最後だったんだ。確か最後もめんどくさいけど、大丈夫かなぁ。
そんな僕の心配をよそに、栞凛は見事きれいだった。ステージの上にある、国旗へお辞儀ができていた。
ようやく全員に卒業証書を渡し終わった。その後は、長ったらしい校長先生の話、生徒代表の挨拶、代表在校生からの言葉、国歌斉唱、校歌斉唱。
「卒業式を、終わります。卒業式、退場してください」
ようやく、卒業式が終わった。
******
「みんな、かっこよかった!」
先生が、今回は熱を持って言っていた。
——なんなら、先生も少し泣いている。周りを見ても、ほとんどみんなが泣いている。なのに、僕は泣いていない。泣こうと努力しても、泣けなかった。
「それじゃあ、最後、元気よく頼むぞっ! さようなら!」
「さようなら!」
僕は、いつもと声量は変わらない。だけど、他のみんなは全力を出していた。なんでそんなに、ぜんを出せるのか、不思議でならない。
「大輝くんっ! 早く帰ろっ!」
栞凛も、僕と同じように、泣いていなかった。——よかった、仲間がいた。
「⋯⋯うん」
僕は栞凛と一緒に、家へ帰ることになった。
「ただいまーっ!」
「ただいま」
「あら2人とも、おかえり」
栞凛もなぜか、うちへ来た。それも、あの日のこと。
******
「その代わり、卒業式の日から、一緒に過ごそうね?」
「⋯⋯は?」
一緒に過ごす?
「でも、さすがにまだ2人ぐらしは厳しいから、私、大輝くんの家に行くねっ! これからずっと、大輝くんの家に住まわせてもらうから!」
「⋯⋯え?」
僕の頭では、理解が追いつかない。一緒に暮らすって、え?
「でも、親も⋯⋯」
「大丈夫! ちゃんと許可はもらってるからっ!」
——準備がいいな、こういうところだけは、ね。
******
「今日も、大輝と一緒に寝る!」
「えぇ⋯⋯」
「大輝くんの部屋のちょっと小さいベッドで、大輝くんと2人で寝る!」
「うえぇ⋯⋯」
僕がちょっと不満そうにしても、そんなの、タッグを組んだこの2人には、一切効かないのだった。
「さっ! 大輝、一緒に寝ようねっ!」
栞凛は僕をベッドに押し込むと、栞凛までもがベッドに入ってきた。
「ねぇ、大輝くん。こっち向いてよ」
「えぇ⋯⋯仕方ないなぁ」
僕はせっかく壁側を向いていたのに。
僕がそっちを向くと、栞凛の顔で視界が覆い尽くされた。
「大輝くん⋯⋯」
「ん?」
僕が反応するよりも早く、栞凛は僕のことを抱きしめてきた。
「このまま、言いたいことが、あって、さ」
栞凛の顔は、なぜだか赤くなっていた。それが伝染るかのように、僕の顔も赤くなった気がする。
「えっと、さ。その、大輝くん。いつも、私といてくれて。私と遊んでくれて。私は、嬉しかった。だけど、悔しかった」
栞凛が話すたびに、栞凛の顔の赤色は、だんだん濃くなっている気がする。
「大輝くんを、どうにか振り向かせようって。せめて、友達にはなりたいな、って。私はずっと思ってた。だけど、気づいたら、大輝くんに好意ばっかり向いちゃって。最初は、隠すつもりだった。仲良くなってから、好意を見せようと思ってた」
珍しく、栞凛が熱く語っている。というより、思い出を語っているように見える。
「私、嘘つくの、下手みたい。友達に聞かれても、すぐにバレちゃって。そのせいで人が集まって、大輝くんも嫌だったよね。ごめんね」
そうだね。あれは、嫌だった。——なんて、このタイミングでは絶対言えない。
「もう、私、我慢できなくなっちゃった。だからさ、私の話、一瞬だけ聞いて」
栞凛はそう言うと、抱きしめていた手をさらに強めて、僕と栞凛の顔はかなり近くなっていた。
「私、大輝くんのこと、好きになっちゃった。だから、私と——」
一瞬、間が走った。僕は早く、この続きを知りたかった。なんて答えるか、まだ決まっていないけど。
「私と、付き合ってください!」
栞凛はその言葉と同時に、僕を抱く力をさらに強めた。
——僕は、それに応えるように、強く、抱きしめ返した。




