第94話 一生、理解不能
「ちょっと! 大輝くんっ!?」
会場の門をくぐろうと、僕が歩いていると、そんな声が聞こえた。
「⋯⋯」
気のせい、だよな? 栞凛は最近、僕に話しかけて来なくなったというのに。
僕は、後ろで聞こえるその声を無視して、歩き続けようとした。
「大輝くん!? 逃げないでよねっ!?」
その声とともに、手は、少し冷たい何かが触れた。
「もーっ! 大輝くんのわからずやっ!」
「ん? あぁ、何?」
栞凛が、僕の手を奪って、無理やり繋いできた。
「大輝くん、どうしてっ!? なんで! 私はただ、謝ってほしかっただけなんだよ!? それなのに、大輝くんったら!」
「⋯⋯?」
僕にはそうは見えなかった。だって、露骨に僕のことを避けてくるし。
「なんでポカンとしてるのっ!?」
「あぁ、ごめんごめん」
「もうっ! 大輝くんらしいっちゃ、らしいけどさ!? 大輝くんはいっつも、乙女心をわかってないんだよ! もうちょっとさ、乙女の気持ちも考えたらどう!?」
⋯⋯と、言われましても。僕には一生理解できないよ、乙女心たるものなんか。
「もういいや! とりあえず、来週は、期待してるからねっ!」
「⋯⋯来週? 卒業式って、2週間後じゃない?」
「そうじゃなくてっ! もう、いいや」
僕はどうやら、諦められたみたい。それもそれで、まぁいいか。
******
「大輝! 買い物行くわよ!」
今週末、僕はお出かけに連れ回される、と思っていた。
「早く、マカロンでも買ってきなさい」
「⋯⋯マカロン? なんで? 食べたいの?」
「はぁもう、あんただけじゃ心配。行くわよ」
車から降りて、僕は母親と近場で少し洋風なお店に来ていた。
「何個買うの?」
「僕に聞かれても⋯⋯」
「あの子は何が好きなの?」
「知らないよ⋯⋯」
すごく質問攻めにされた。でも、こうやって質問攻めにされて、わかったことが1つ。
——僕って、栞凛のこと、ほとんど知らないんだな。
「もういいわ」
母親も、呆れたように首を振った。
そりゃ、呆れるわな。
「あの子、アレルギーとかはない? 嫌いなものとか」
「ない⋯⋯んじゃないかな。何でも食べると思う、よ」
正直よく知らない。栞凛のことなんか、ほとんど知らない。
店の扉を開けると、カランカランと、音が鳴る。
ショーケースには、いろんな色のマカロンが並んでいた。店内は狭い作りで、そんなに入れないと思う。
「じゃあ、10種類おまかせの味で、お願いします」
「おまかせですね。アレルギー等は、ございますでしょうか?」
丁寧な口調で、店内さんも対応してくれた。
「大丈夫です」
「わかりました」
店員さんは、それだけ言って、袋を取り出すと、マカロンをその袋に詰めていった。
「お待たせいたしました」
商品を手渡された。
「料金、4400円です」
うわぁ、意外と高いなぁ。
「これで」
「ぴったりですね。ありがとうございました」
僕は扉を開けて、カランカランという音を響かせた。
「ちゃんと渡しなさいよ。高かったんだから」
「⋯⋯さすがに渡すよ。僕、マカロン大好きってわけじゃないし」
「そういう問題じゃないのよ。ま、いいわ」
何がいいのか、ちょっとよくわからない。けど、まぁいいや。ってことらしい。
母親は車のエンジンをかけると、すぐに走り出した。
「じゃあ、次は外装ね。外からこだわらなくちゃ」
「う、うん」
なんとなく、なんとなくだけど、ね? 母親が、1番楽しんでるように見えるのは、気のせいなのかな?




