第92話 来月の準備?
「僕、何か悪いことしたかなぁ?」
さっき、なぜだか栞凛が機嫌を悪くしてしまった。ただ、僕には一切それがわからなかった。
結局栞凛のくれたものは持って帰ってきちゃったけど、いいのかな?
「はぁ」
僕は心にモヤモヤを抱えていた。
栞凛があんなに機嫌を悪くするような対応があったなら、教えてほしい。できれば、改善したい。
「やっぱり、わからないなぁ」
いくら考えてみても、いくら振り返ってみても、何もわからない。僕には理解できないこと、なのかな。
栞凛がくれた袋を机の上に置いて、僕はそれを見つめていた。中身を開けていいのかもわからない。けど、今日、だもんな⋯⋯。
2月14日、バレンタインデー。その日にくれるものと言ったら、1つしかない。
「チョコ、なのかなぁ」
たとえチョコだとしても、今のままでは、すごく食べにくい。だからといって、食べないのも衛生的に悪い。栞凛に返すのも、なんか気が引けるし、なぁ。
僕にはもう何がなんだかよくわかんない。本当に、僕に渡したかったのか、それとも、そうでないのか。
「ちょっと、聞いてみるか」
僕はその袋を持って、母親のいるリビングへ向かった。
「ねぇ、今日、これもらったんだけど」
僕はそう言いながら、母親にその袋を見せてみた。
「⋯⋯これ、あの子からもらったの?」
「うん。だけど、なんか機嫌悪くしちゃって」
僕がそう言うと、母親は黙り込んだ。
「本当に、食べていいのかもわかんないし」
「食べなさい。そして、来月の準備も、しておきなさい」
来月? う〜ん、あぁ、公立受験か。でも、あと1ヶ月もない気がするんだよなぁ。まぁ、いいか。
******
僕は自分の部屋に戻って、早速袋から箱を出してみた。その箱の隣には、手紙のようなものまで入っていた。
「なんだこれ、読んでみるか」
僕は手紙の封を開けて、紙を取り出した。
大輝くんへ。
これ、私からのバレンタインのチョコだよ。だから、食べてね。美味しく食べてくれたら、嬉しいな。
手紙には、それだけが、丸っこい、小さな文字で書いてあった。
その下には、栞凛が描いたのか、絵のようなものがあった。絵というより、落書きと言ったほうが、正しいかもしれない。
「バレンタインか。どうせ、義理だろうけど」
僕はうまれて初めて、バレンタインにチョコをプレゼントされた。なんかでも、すごく複雑な気持ちだった。嬉しいような、悲しいような、全体的にモヤがかかっている気がした。
「開けるか」
僕は中に入っていた箱についているリボンを取り、蓋を開けてみた。
そこには、ハート型のチョコが、ちょっと並んでいた。
「すごく、美味しそう」
美味しそう、だけど、今の僕では、そのままの味を素直に楽しめない気がした。栞凛とあんなことがあったから、なぁ。
僕は蓋をもう一度被せて、あとで、食べることにした。
******
後日、学校があった。
「栞凛、来ないな。なんか、あったのかな」
僕はなぜか、栞凛を待っていた。が、やっぱり栞凛は来ない。
あの日を境に、栞凛は僕に近づかなくなった。なぜか、僕から逃げるような素振りまで見せる。
あれは、僕が悪いのか、僕にはわからない。けど、栞凛が何か思ったことがあるなら、できれば言ってほしい。本当に、できればでいいんだけど。僕も、栞凛にとって隣いても、なんにも思わないぐらいの人には、なっておきたかった。




