第91話 わからずやっ!
「あーもうっ! 大輝くんの、わからずやっ!」
私はベッドの上で、ぬいぐるみに顔を埋めていた。
起き上がると、そのぬいぐるみは、なぜか少し濡れている。
「私が丹精込めて、大好きな大輝くんのために作ったのに、どうしてっ!」
ずっと、さっきの大輝くんの顔が脳裏に浮かび上がってきてしまう。私はそれを必死に追い出そうとしてるけど、大輝くんはずーっと、出ていってくれない。
「せっかく、頑張ったのに⋯⋯」
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これは、受験のちょっと前。
「ふんふふ〜ん! 大輝くん、喜んでくれるかな〜?」
私はるんるんで、大輝くんへ向けたチョコを作っていた。今、ようやくチョコを溶かし終えたところだ。
時計はもうとっくに、深夜1時を超えていた。だけど、不思議と眠たくない。
「えーっと、こっからどうやろうかなぁ?」
私はスマホを開いて、検索をかけた。
『お手軽! 15分でできるチョコレート!』
『簡単で美味しいチョコレートの作り方』
『手作り簡単でかわいいチョコレート!』
とか、どれも『簡単』なものばっかり。⋯⋯大輝くんにあげるんだし、手の込んだのを作りたいなぁ。
「あっ! そう言えばっ!」
私は今日百均で買ってきた、チョコレートの型を取り出した。
「ちゃんと、ハート型を選んできたからねっ! 大丈夫っ!」
私はその型をキッチンに取り出した。
「よしっ! そしたら、ここに、流し込めばいいのかな?」
私は検索ページの画面とにらめっこした。
「う〜ん、多分大丈夫っ!」
私は思い切って、ハート型の型にチョコレートを流し込んだ。
「⋯⋯あとは、冷やして、待てば完成かなっ!」
私はとりあえず冷蔵庫に入れた。
「あとは、あっ! お手紙でも、書こうかなっ!」
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「ようやく書き終わった〜!」
書いて消して、また書いてまた消して、また書いてまた消して。それがずーっとループしていた。
そんなループも、1時間が経ち、ようやく終わった。
「あ、ちょうど1時間!? 取り出さなくちゃっ!」
私は急いで冷蔵庫に駆けつけて、扉を開けた。
「う〜ん、美味しそう⋯⋯」
少しぐらいなら⋯⋯いや、だめっ! 大輝くんのだもんっ!
私はブンブン首を横に振って、我慢した。——やっぱり、食べたいなぁ。⋯⋯ジュルリ。
「我慢我慢! 大輝くんのは取っちゃだめなんだからっ!」
私は欲望をなんとか押さえつけられた。⋯⋯ふぅ、危なかったなぁ。
「えっと、これは、バレンタインまで取っておかなくちゃっ!」
私はそのチョコを、一旦お皿に移して、冷蔵庫に押し込んだ。
「あとは、箱を準備して、と。あ、袋も用意しなきゃねっ!」
私は一度キッチンを離れて、探すことにした。
「確か、この辺に⋯⋯」
一度私の部屋に戻って、あったはずの袋と箱を探した。
——でも、どこにもない。
「あれぇ? う〜ん、明日にでも、ママに聞こうかな」
私はその日、諦めて寝ることにした。
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次の日の朝、私は早速ママに聞いてみた。
「あ! ねぇママ! 袋と箱知らない? チョコ入れるやつ!」
「あぁ、栞凛はなくすと思ったから、保管しといたわよ」
「本当!? ありがとっ!」
ママはすぐに取ってきてくれた。
「はい、これ。栞凛、もう作ったの?」
「うんっ! 受験だからねっ!」
私は冷蔵庫から昨日作ったチョコを箱に詰めて、用意した。
「大輝くん、喜んでくれるかな〜?」
「そうね〜、きっと喜んでくれるんじゃないのかしら?」
うん! きっと喜んでくれる! ママが、そう言ってるんだもん!
——まさか、それが、ああなっちゃうなんてね。大輝くんらしいっちゃ、らしいけど。




