第90話 私立の受験と――
僕は栞凛と一緒に、受験会場へ来ていた。
「じゃあ、頑張ろっか!」
「⋯⋯うん」
僕らはそのまま、受験会場へ入った。
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その会場は、長い机がいくつも並べられ、左右の生徒が距離を取り合っている。
「始め」
見張りの先生は、冷酷な声をこの教室に響かせていた。あたりには、いろんな生徒の腕時計からか、カチ、カチと、規則正しく音が鳴っている。
僕と栞凛は別々の教室になったが、大丈夫なのか。まぁ、きっと、栞凛なら。
僕はすらすらと筆を進めていた。
色々栞凛と対策したところが結構出てるな⋯⋯。栞凛、覚えていればいいけど⋯⋯。
「やめ」
と、先生がそうやって言った途端、コンと、ペンを置く音が何重にも重なって聞こえる。
とりあえず、1つ目の教科は終わった。
さて、次だ。
時間は、刻一刻と過ぎていた。
そして、気がついたときには、もうすべての教科が終わっていた。
「ふぅ」
僕は一息ついて、椅子に体重を預けた。
「よし、行くか」
それも束の間、僕はとある約束を思い出して、急いで荷物をまとめた。
——栞凛は、待っているのだろうか。
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あの花火大会のときの場所に、僕は来た。
そこにある1つのベンチには、僕のことを待っている影があった。
「ごめん、遅くなった」
「大丈夫っ! 私も今来たばっかだからっ」
なんとなく、そういうセリフは、決まり文句のような気がするが、まぁいいや。
「で、大輝くんは、どうだった?」
受験のことか。
「まぁ、ぼちぼち?」
「ふ〜ん」
どこか自信ありげな栞凛がいる。僕とやったところを、覚えてくれればいいけど。
「私は、結構できたよっ! 大輝くんが教えてくれたところが、たーっくさん、出たからね!」
「そうだね。よかった、勉強した甲斐があって」
栞凛は、合格できるのだろうか。できれば、してほしいと思っている僕がいた。
「次は、公立受験だね」
「あと2週間後ぐらいだっけ?」
「多分」
栞凛にしては珍しく、中身のない会話だと思う。まぁ、珍しくは、ないか。
「えっと、帰ろっか」
「あ、帰る?」
今日は、なんかあると思ってたけど、ないのか。
そこには、ちょっと期待していた僕がいた。
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「えっと、一瞬だけ! 一瞬だけ待ってて!」
栞凛の家に着いた。もう、着いてしまった。
栞凛は玄関の扉を開けて、急ぐように中へ入っていった。
「待つか」
僕は少しだけ、待ってみることにした。
そしてすぐに、栞凛は戻ってきた。
「あ、来た」
なぜか手を後ろに回しながら、少し顔を赤くしていた。
「えっと、実は、ね? 私、ちょっと、受け取ってほしくて⋯⋯」
栞凛にしては珍しく、少しかしこまって接してくる。
栞凛は後ろに回していた手を前に出した。
「え? これ?」
「えっと、えっとね、これを、もらってほしいの!」
少し高そうな袋に包まれて、少し高級そうな箱が、少し豪華そうな赤いリボンで結ばれていた。
「大輝くんには絶対、今日、渡したかったから」
「⋯⋯い、いの? こ、こんな、僕なんかに——」
「いいに決まってるじゃんっ!」
僕の言葉を遮って、栞凛は大声で言った。
「なんでだめになるのっ!? 私は、大輝くんに食べてほしくて! 頑張って作ったんだよ! なのに、なのにっ⋯⋯!」
少し、間が訪れる。空白の時間が。
「どうして、断ろうとなんかするのっ! 私は、私は、大輝くんに受け取ってほしかった、大好きな——っ!」
「⋯⋯ご、ごめ——」
「大輝くんなんか、もう知らないっ! 置いておくから、勝手に食べればっ!」
手に持っていた袋を置くと、栞凛は泣きながら、走って家に戻ってしまった。
「⋯⋯」
何もかもが吹き抜けていくような、感じたことのない感触が、僕を襲っていた。




