第89話 明日から
「明日から本気出す!」
「それ、出さない人のセリフ」
僕は、栞凛の家に連れてこられていた。
「え〜! もーっ、しょうがないなぁ。大輝くんが一緒にやってくれるならやる!」
「はいはい。早くやって」
僕が勉強を始めようとしても、なぜか栞凛がずっと見てくる。かなりやりづらい。
「やらないの?」
「⋯⋯いや、大輝くん、机使う?」
栞凛の部屋には、背の低いローテーブルと、ベッド付きの勉強机があった。
「ううん、僕より、栞凛がやらないと」
「⋯⋯あ、私も下でやろっと!」
「やだ」
「やだねーっ」
そうやって反抗する栞凛に、僕はニヤッと笑ってみせる。
「⋯⋯ここでやります」
栞凛は僕の眼差しから察してくれたのか、とりあえず良かった。
「わかんなかったら、なんか聞いて」
——そこから、僕と栞凛の受験勉強が始まっていた。
******
もう気がついたら、2月に入っていた。あと1週間後には、私立の高校の受験が来る。
「私立は、どこ受けるか決まってるの?」
僕は栞凛に聞いてみた。星稜は、一応公立高校だし、単願というのも、さすがに危険だろう。
「ん? 大輝くんと同じところだけど?」
⋯⋯? 僕、栞凛に言ったっけ、私立はどこ受けるのか。
「え、明頂高等学校?」
「もちろん、そうだよ?」
⋯⋯なんで知ってるんだ? う〜ん、僕、言ったのかなぁ?
「なんで僕がそこ受けるんだって知ってるの?」
栞凛は人さし指を立てながら、栞凛の口の前まで持ってきた。
「⋯⋯ふふっ、内緒っ」
意地悪そうな笑みを浮かべながら、栞凛は言った。
「まぁ、いいや」
きっと、僕が言ったんだろうね、どっかのタイミングで。僕は、そう思っておくことにした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ふふっ、内緒っ」
私はそういったとき、かなりドキドキしていた。
バレたらどうしよう⋯⋯? 大輝くん、私のこと嫌いになっちゃうかも⋯⋯?
「まぁいいや」
大輝くんがそうやって言った。
ふぅ、セーフっ!
私は汗を拭いながら、すごく安堵していた。
危ない危ない。大輝くんのお部屋に行ったとき、盗み見したーなんて、口が裂けても言えないや。だってそしたら、大輝くんのお部屋入れなくなっちゃうかもしれないしっ!
「はい、とりあえず、勉強するよ」
「えーっ、仕方ないなぁ」
私は仕方なく机に向き直り、シャーペンを手に持った。
「なんか最近、色々解けるようになってきたよっ!」
これも、大輝くんが教えてくれたからなのかなっ。
いつもの私ではありえないスピードで、筆が進んでいる。特に数学の計算とか、別人かっていうぐらいには。
「よかったね」
大輝くんはそうやって言って、微笑んでくれた。
——そういう1つ1つが、私の心にぶっ刺さるのにっ! もう、今すぐにでも、抱きつきたいっ⋯⋯けど、我慢我慢。ご褒美は、とっておかなくちゃっ!
私はなんとか私を制御して、大輝くんへ飛び込もうとするのを抑え込んだ。
「私立の受験って、14日だよね?」
「確か、14日、だよ」
14日——う〜ん、いつにしようかなぁ? 前にするか、後にするか。え〜! どっちにしよう?
前だったらぁ、同じ場所だし、できるかなぁ?
後だったらぁ、ご褒美って感じにできるよねぇ。
「う〜ん、悩むなぁ」
私が頭を抱えていると、大輝くんが話しかけてきた。
「⋯⋯何が悩む、の?」
「あっ——何でもないっ!」
やばいよっ! 絶対、バレちゃいけないっ!
——私は、大輝くんを、喜ばせたいんだもんっ!




