第87話 白い息と白い雪
——奇襲はずるいじゃんっ!
大輝くんは、私を後ろから抱きしめてきた。
バックハグなんて、聞いてないよっ!? しかも、私に手を添えて結ぼうとしてくるなんて、大輝くん、ずるいっ!
「ん、こんなもんで、いいかな」
私の顔は、すっごく真っ赤になっていると思う。
胸の高鳴りがすごくうるさくて、冬なのに、すっごい暑いよっ!?
「⋯⋯あ」
大輝くんが離れていったとき、思わずそんな声が漏れ出ていた。
「あ、ありがと⋯⋯」
私は大輝くんを名残惜しく見つめた。
だけど大輝くん、すっごく可愛い! だって大輝くん、顔を真っ赤っ赤にして、そっぽを向いちゃうんだもん!
「⋯⋯別に」
大輝くんは、なぜか肩を落としちゃった。ううん! 恥ずかしくて、うつむいちゃったんだよねっ!
「もーっ、照れ屋さんっ!」
私は大輝くんの手を奪って、恋人繋ぎをした。
——本当は抱きつきたかった! だけど、人がいっぱいいて、大輝くんが変な目で見られちゃうから、やめてあげるねっ!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「行くよ」
僕は栞凛に繋がれた手を引っ張って、参道を戻りだした。
たくさん屋台があるけれど、全部無視して、一直線で家に帰る。帰ったら、栞凛に料理を振る舞えるのだから。
「うんっ!」
栞凛は元気よく返事をしてくれた。
たったそれだけの行動が、僕にどれだけ影響するのか、多分栞凛は知らない。
「はぁ⋯⋯」
僕の口からは、ため息が漏れていた。そのため息は、白い色をしていた。まるで、頬とは反対の色を表すように。
さっきのこともあり、僕の心臓は、うるさいぐらいに鳴っていた。
それを包み込むように、栞凛の手が握られていた。
******
「大輝くんっ! 私、お腹すいちゃった!」
僕の家に帰った途端、栞凛はそんな言葉を漏らした。
「あら、じゃあ、作ってあげようか?」
僕の母親は、なぜかこの会話に突っかかってきた。
「ねぇ、お父さんは?」
「父さんなら、『会社の付き合いだー』って、ついさっき出ていったわよ」
「⋯⋯ふぅ」
まだ、栞凛のことは父親には知られてはいけない。いや、正直母親にも知られたくはなかった。が、こればかりは仕方ない。
『ぐ〜』
その会話を遮るように、誰かのお腹が鳴った。
「⋯⋯あ、えへへ〜」
栞凛だ。多分、よっぽどお腹が空いたんだろうね。
「作るから、待っててちょうだい——」
「大輝くんが作ってくれるから、大丈夫ですっ!」
栞凛がそう言うと、母親は目を丸くして驚いていた。
「あら珍しい。なら、やってちょうだい。じゃあ私は出てくから、お幸せに〜」
と、母親はそそくさとリビングを出ていった。⋯⋯何も準備してない気がするけど、いいのか?
「じゃあ、大輝くん、何作ってくれるの!?」
「何がいい?」
「大輝くんが作ったやつなら、何でもいい!」
「わかった」
何でもいいかぁ。1番困るんだよなぁ、その返答が。うーん、カレーでいいや。
僕は手際よく準備を始めた。⋯⋯自分で言うのも難だけど。
「ふんふふ〜ん! 楽しみだなぁ!」
栞凛はリビングから、僕が作業しているキッチンを覗き込んできた。
「別に逃げないから、勉強でもしてれば?」
「やだっ!」
即答だった。どんだけ勉強したくないんだよ、もう⋯⋯。
******
「あい、できた」
僕はご飯とルーを皿に盛り付けて、栞凛に手渡した。
「うわ〜! 美味しい〜!」
「⋯⋯まだ食べてないじゃん」
食べてないのに、美味しいと。わかるわけがない。
「ううん! もう、大輝くんが手作りしたってだけで、美味しいに決まってるもんっ!」




