第85話 お賽銭
カチ、カチ、と、時計の針が1秒ずつ揺れる音すらも、聞こえていた。
「ん、ん」
栞凛はやっと、唇を離してくれた。
「あ⋯⋯」
僕は思わず、そんな声を出していた。僕にも、なんでかはわからない。
「大輝くん、あのさ」
栞凛が急に改まって言った。⋯⋯改まるなら、そこをどいてくれ。
未だに僕に栞凛が乗っかっている。
「今日ぐらい、遊びに行こうよ」
「⋯⋯どこに?」
嫌とは言わない。反対に、いいよとも言わない。決めているなら、決めているが1番いい。
「えっと、神社とか」
「神社かぁ。人多いんだよなぁ」
年末年始限定で、人が大量に寄り付く場所、神社。
「大丈夫! 迷子にならないように、私が手を繋いでおいてあげるからね!」
******
「ほら、手、つなごうよ? 迷子になっちゃうよ?」
最寄りの神社に着くと、案の定人だらけだった。
「僕を、子供あつかい、しないで」
「じゃあ、私が迷子になっちゃうから! ほら、とりあえず、手をつなご?」
栞凛はそういうと、問答無用で僕の手をさらい、指を絡めるように繋いできた。
「それじゃ、レッツゴーッ!」
栞凛は意気揚々と歩き出した。
人だらけの参拝路には、屋台が色々並んでいた。
「からあげ、ふりふりポテト、チュロスに⋯⋯とにかく、たっくさ〜んある! 美味しそう〜!」
手を繋いだ直後から、栞凛は屋台へ走り出そうとする。
「どれ買うの?」
僕は一応聞いてみた。⋯⋯全部とも、言いかねないな、栞凛なら。
「う〜んと、美味しいやつ!」
うわぁ、外した。ちょっと斜め上の回答だなぁ。
「あ、私大輝くんのが食べたい! この世で1番美味しいやつ!」
「⋯⋯僕の?」
ちょっとよくわからない。屋台ってのは、そこで買うからいいってのに。
「まぁ、だめ、とは言わない」
「じゃあ決定ね!」
この人混みの中で、栞凛はウインクを見せつけてくる。
なんてことを、してくれるのだ。
******
「賽銭箱の長い列に、ようやく先頭が見えてきた」
カランカランと、鈴の音が聞こえる。
僕は財布を開いた。
「5円玉、あ、あった」
「う〜ん、10円玉でいっか」
栞凛は10円玉を取り出していた。
「5円玉、まだあるけど、欲しい?」
僕が聞くと、栞凛は小首をかしげて聞いてきた。
「え、くれるの?」
「まぁ、しょうがない。いつか返して」
「え〜! ま、いつか、ね?」
栞凛は嬉しそうに僕から5円玉を受け取ると、大事そうに手で握りしめた。
「あ、もうすぐ」
いつの間にか、先頭まで来ていた。僕は手に持っていた5円玉を投げ入れて、鈴を鳴らした。
(2人が受験に合格できますように)
僕はそうやって願った。⋯⋯それは、まぁ、努力しだいなんだけどね。
二礼二拍手一礼、僕はそれをして、すぐにそこから離れた。
栞凛もそれに続いてくる。
「何お願いしたの!?」
「⋯⋯何も」
「まぁ、言ったら叶わなくなっちゃうもんね!」
栞凛は勝手に完結させていた。
「あ、おみくじひこうよ! ほら、200円だって!」
栞凛はおみくじの入っている箱へ向かった。
チャリン、とお金を入れて、おみくじをガサゴソと漁っている。
「次、大輝くんの番!」
あんまり信じないし、別になぁ。
「はいはい」
無駄な出費だと思う。おみくじなんて、僕にとってはただの紙切れでしかない。
仕方なく手を突っ込んで、僕はおみくじを引くことにした。




