第80話 綺羅びやかな夜空
もう冬休み。と言っても、たかが2週間。中3の冬休みなんて、どうせ勉強三昧なんだろうけど。
そんなある日、僕のスマホが音を立てた。
『今日の夜、暇かな?』
差出人は、もちろん栞凛だ。
「多分」
僕はスマホにそうやって打ち込んだ。多分って、どういうことや。
『じゃあ暇だね』
10秒もしない内に返事が返ってきた。栞凛、打つのはっや。
「かもしれない」
『駅前で、待ってるから』
僕は、適当に返事をしていた。本当に、暇なのかわからない。だけど、忙しいとは言いたくない。嘘では、ないかもしれないけど。
「わかった」
僕はそれだけ送ると、スマホをパタンと裏返しに置いた。
ふと、机に目をやると、カレンダーが激しく主張をしてくる。
そうか、今日——クリスマスか。
そんなこと、すっかり忘れていた。
******
5時を知らせるチャイムが鳴った。それは、駅だからか、いつもより大きかった。
僕は予定よりかなり早く来ていた。なぜか、体が我慢してくれなかった。
「なんで、こんなに早いんだろ」
僕は自分の行動が不思議でならなかった。こんなに早く出なくていいはずなのに、なぜか、家を出発していて、なぜかここに到着していた。
——それは、僕だけではなかった。
「ごめん、待った?」
「いや、全然」
5時のチャイムが鳴り終わると同時に、栞凛が姿を現した。——7時集合の、はずなのに。
「えっと、早すぎちゃったね⋯⋯」
「⋯⋯うん」
まだ、2時間もある。ここがライトアップされるまで、あと2時間。
今は、イルミネーションが張り巡らされているだけで、全く光が灯っていない。
「ちょっと、海でも見に行く?」
栞凛が、つぶやいた。
「行っても、いい」
「じゃあ、行こ」
そう言っても、なぜか栞凛は動き出さない。
「クリスマスぐらい、手を繋ごうよ」
「⋯⋯うん」
僕は、頷いた。頷いてしまった。なぜか、首を横に振ることができなかった。
「じゃあ、行こ」
******
あれから、かなり歩いた。スマホを見てみると、もう6時を回っていた。
「やっと、ついたね」
水面が星の光を反射して、キラキラと輝いていた。
その上に、1本だけ大きな建物が立っていた。
「灯台、登る?」
「⋯⋯どっちでも」
僕は、曖昧な回答しかできなかった。なんでだろう。断りたいのに、断れない。
「行こ」
栞凛に手を引かれて、僕らは1本飛び出ている通路から、灯台へ向かった。
灯台は、小さな光が、あたりを少し照らしていた。
頂上に着くと、それはまた綺麗だった。
静かに揺れる水面が、綺羅びやかな空の星をこれでもかと照らし、奥の方には、船の光のようなものまで見えた。逆を見ると、これまた綺麗だった。カラフルな光が街中を明るく染めていた。
「ね、ねぇ、大輝くん」
「ん?」
「こんなところで2人きり。どういうことか、わかる?」
こんなところ。灯台の上。砂浜にも、誰1人として姿を現そうとしない。つまり、2人きり。それが、どういう意味を差すのか。
別に、ただの灯台の上。どこにでもありそうな、灯台。ただの砂浜。ただの海岸。夜空だって、どこでも見られる景色。そして2人きり。誰の目も届かない、2人きり。いや、誰かは、見ているのかもしれない。このシチュエーションが何を差すのか。何をするのか。栞凛は何を考えているのか。全ては、栞凛の頭の中、想像上のものでしかない、のかもしれない。のだと思う。栞凛は一体——何がしたいんだろう。




