第79話 遺伝かな
「ねぇ大輝くん」
「ん?」
「もうテストだよ? 今日からテスト週間だし」
何か言いたげな顔でこちらを見てくる。⋯⋯何が言いたい。
「⋯⋯それが?」
僕は恐る恐るに聞いてみた。
「え、勉強しよ? 一緒にさ」
「えっ?」
栞凛から勉強をするなんて⋯⋯珍しい、珍しすぎる⋯⋯!
僕の口からは、出たこともないような声が出ていた。目を見開いていた。
「なんで?」
きっと、何か裏がある。これは、僕の経験が物語っていた。
「え? いや、えっとねぇ⋯⋯」
やっぱりな。どうせそんなことだろうと思ってたよ。
言葉を煮詰まらせた栞凛は、どうにか喋ろうとモゴモゴ喋っていた。
「聞こえない。もうちょっと出して」
「もう! 面談で、このままじゃやばいって言われたの! なんか文句ある!?」
栞凛は顔を真っ赤に染めて、急に大声を出した。
「あぁ、ごめん⋯⋯」
「だから、いいね!? とりあえず頑張るよ!」
「うん」
なぜか申し訳なく思い、僕は了承した。僕も勉強できるし、いいな。
******
いつも通り、栞凛の家で勉強をすることになった。
「とりあえず、勉強始めるか」
僕は色々と勉強道具を広げ、準備をする。なんならもう終わる。そんなとき、栞凛はたったいまようやく準備をし始めた。とてもゆっくりに。こいつは本当に、危機感があるのか⋯⋯?
「はぁ。めんどくさいなぁ。私やりたくなーい」
「なら僕帰るけど」
「⋯⋯じゃあやる」
その日から、毎日栞凛との勉強が始まることになった。
ある日。
「今日くらい、ちょっとこだわろうかな」
僕は身支度を始めた。
いつもの単色コーデ、じゃなくて、本当に、少しだけ。
「決めてもらうか」
僕は母親にでも聞いてみるか。
「ねぇ、どうすればいい?」
「そうねぇ⋯⋯」
母親は、何かをひらめいたように手をポンッと叩いた。
「あっ、ちょっと待っててちょうだい」
母親は、なぜか軽い足取りで部屋を飛び出ていった。
「これとか、どうよ?」
母親が僕に差し出してきたのは、なんとも言い難い服装だった。主張が激しい英語の文字、明るすぎる色使い、謎のものが描かれている。⋯⋯遺伝かな、こういうのって。
「やっぱいいや。いつもので」
「あらそう? 似合うと思うけどねぇ?」
母親は、期待を込めたような目つきで見てきた。あんなもの、絶対着たくない。
「着ないからね?」
「⋯⋯そう」
母親は名残惜しそうに部屋を出ていった。
「ふぅ。助かったぁ」
あんなものを着て行ったら、痛い目でしか見られないだろうし。危なかった⋯⋯。
「まぁいいや、これで」
いつもの黒一色のコーデ。これが、僕というもの。地味でいいんだよ、陰キャなんか、そういう生物なんだから。
僕は鏡の前に立ち、チェックしてみた。——よし、いつもと変わらんな。
「あとは、髪ぐらいは整えるか」
洗面所に行って、自分と見つめ合ってみる。鏡で。
「なんか、陰キャって感じだな⋯⋯」
長い前髪を前におろして、なんにもない顔をしている。地味すぎる。
「髪ぐらい、上げてみるか」
僕はそのへんに落ちていたピンを拾って、髪を止めた。
「めんどくさいし、これでいいか」
いつもよりはマシだろうから。
僕は適当に普通のピンで前髪を留めた。いつもより、目が見える。なんだか、世界が明るいような⋯⋯。
「じゃあ、いってきまーす」
僕は適当にそうやって伝えて、家を出た。
栞凛、気づいてくれるかな。




