第78話 回転寿司
「あ、始まる」
目の前の水槽に、ついにイルカがやってきた。そのそばには、1人のダイバーもいた。
「うわ〜! イルカさんだ〜!」
栞凛は無邪気な声を上げて、すごく純粋に楽しんでいるように見える。⋯⋯こんな純粋に楽しめるんだなぁ。
「待って! こっち来たよ! かわいい〜」
「ほんとだ」
僕はイルカに会釈をすると、イルカは興味深そうに僕を見たあと、ダイバーの方へ戻っていった。
「案外、可愛い、のかも」
「でしょ?」
栞凛は、まるで自分が言われたかのように、自慢げだった。
「あっ! イルカさんが飛んだ!? 見て! ほら!」
「⋯⋯うん」
僕もそのイルカのショーに見惚れながら、静かに返事をしていた。
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「あーあ、終わっちゃったぁ」
栞凛は名残惜しそうに水槽を見る。するとそこへ、さっきのイルカがなぜかやってきた。
「きゅい!」
愛らしい声を上げるそのイルカは、笑顔のような顔で鳴き声をあげた。
「あらら、どうやら君たちのことが気に入っちゃったみたい」
気がついたらそこには、ダイバーもいた。ダイバーはやれやれという表情をしながら、イルカを呼び寄せた。
「じゃあ、最後に。君たちだけへ、特別に見せてあげようか! 行くよ、サクラ!」
サクラ——イルカの名前だろうか。サクラは嬉しそうにダイバーのところへ行った。
「サクラ、大ジャ〜ンプ!」
その言葉通り、サクラは大ジャンブして、上にある輪っかを見事通過した。
ザバー! と大きな水しぶきがあたりを敷き詰め、それは僕たちにも思いっきりかかっていた。
「はい、今日はありがとね! ぜひ、また来てね!」
ダイバーは手を振りながら、戻っていった。栞凛もイルカに手を振っていた。
「やっぱ、可愛かったね」
「うん」
サクラは、可愛かった。それは、すごく。
「そろそろ帰る?」
「⋯⋯うん」
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「あー、なんか水族館行ったあとって、な〜んか無性に寿司が食べたくなるんだよなぁ」
「確かに。わかるよ、それ」
なんかね。魚見たあと魚食べたくなる症候群にでもかかってるのか。
「じゃあお寿司屋さん行って、今日は帰ろう!」
とまぁそんなこんなで回転寿司に到着した。
「よぉし、何食べようかな?」
「まぐろとか、サーモンとか?」
いつも頼む、定番のものだよね。
僕はタブレットを操作しながら、栞凛に聞いていた。
「あ、届いた」
タブレットに聞き馴染みのある音が鳴ると同時に、レーンからは寿司が流れてきた。
「じゃあ大輝くん。口、開けて?」
栞凛は首を小さくかしげ、顔を真っ赤に染めながら、そう要求してきた。
「ほら、早くしないと」
栞凛は箸でマグロを掴んで、僕の口へと運ぼうとしている。
「ほら? 早く食べないと。落っこちちゃうよ?」
「いい。自分で食べ——」
僕はこの瞬間、ハッとした。あの、文化祭のとき、同じことをされた記憶が蘇ってきた。僕はそれに気づいたとき、すぐに口を閉じて、対策をした。
「なーんだ。ちぇっ」
栞凛はふてくされたように頬を膨らませた。
もう騙されないぞ⋯⋯! と心に決めたのはいいものの、なんかなぁ。
「あ、そうだ大輝くん、私ね、言いたいことがあるの」
上目遣いで何かを訴えかけるように栞凛は僕に話してくる。
「ん? 何か?」
「⋯⋯あ! 明日テストだっけ?」
突然思い出したように栞凛は言ってきた。⋯⋯明日、テストあんかあったっけ?
「えっと、小テストが⋯⋯」
僕はそれを聞いたとき、開いた口が塞がらなくなっていた。
「よしっ! チャーンス!」
まるで狙っていたかのように僕の口にマグロを押し込んできた栞凛。——完全に油断してた⋯⋯。
「で、テストは?」
「え? もちろん嘘だよ?」
⋯⋯。⋯⋯⋯⋯。⋯⋯⋯⋯⋯⋯。やられた。




