第76話 2度目の騒動
「はいっ! 早く来て!」
僕は結局、何も準備できずに栞凛の家に連行された。
「よしっ! 今日はもう、帰さないからっ!」
ガチャ、とドアの鍵を閉める栞凛。⋯⋯別に、開けられる気が。
「これじゃあ、何もできないじゃん」
「別にいいんだよ? 私が貸してあげるからっ!」
と栞凛に押し切られ、僕はここに来てしまったというわけだが。
「だめだよ。着替えとか、歯ブラシとか、全部ないし」
「だーかーらっ! 貸してあげるから、大丈夫なのっ!」
⋯⋯まぁいいや。別に、嫌ってわけじゃ、ないし。
僕は自分の中で完結させた。
「さっ! 玄関じゃなくて、私の部屋に行くよっ!」
栞凛は靴を脱ぎ捨てると、弾むような足取りで階段を上っていった。
「⋯⋯まったく、やれやれ」
僕は自分の靴を整えると同時に、脱ぎ散らかされた栞凛の靴までも整えて、栞凛の部屋に向かった。
「もーっ! 遅いじゃん!」
たかが数秒しか経ってないと思うんですが。
栞凛はベッドの上にちょこんと座って僕を待っていた。
「ごめんごめん」
何が悪いのかよくわかんないけど、一応謝ろう。栞凛の機嫌がとれるのならば。
「もーっ! 仕方ないなぁ! 大輝くんは!」
栞凛は突然立ち上がって、僕の真正面までトコトコ歩いてきた。
「えっと、なにする?」
僕は部屋を見渡した。――ごみが、ほとんど転がっていない。なんなら、床が見える。あの状態を、キープしていたとは。
「なんでも」
僕は何も持っていない。持って来られなかった、が正しいかもしれない。
「じゃあ、しりとりとかでも、する?」
******
「もうこんな時間か」
「あ、そろそろお風呂行く?」
しばらくぼーっと、栞凛に付き合っていたら、時計の短針は、まもなく9を差すところだった。
「ほら、来て?」
「⋯⋯え?」
栞凛はなぜか僕の手を引っ張って、どこかへ連れ去ろうとしてきた。
「一緒に入る、って約束したでしょ?」
満面の、恐怖の笑みで栞凛は僕に語りかけてくる。
「⋯⋯してない、と思う」
と思いたい。未成年の男女が一緒に風呂へ行くなど、ありえない。
「え? したでしょ?」
「⋯⋯してなく、あってほしい」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「約束、したじゃん!」
私は大声で言った。
私、一緒に入りたいもん! 一緒に入りたかったら、それでいいの!
でも大輝くん、すっごく嫌そうな表情をしてる。だめ、なのかな?
「だって。一緒に、入りたいんだもん⋯⋯」
私は、両手で頬を覆いながら、小首をかしげて大輝くんを見つめた。そしたら大輝くん、お顔が真っ赤になっちゃった。――ふふ、照れ屋さんなんだから、もうっ!
「普通に、だめ、じゃないかな?」
大輝くんは、なんだか言葉を選んでくれたような気がした。いつもの大輝くんなら、もうちょっときっぱり言ってくるはずなんだもん!
「付き合ってないとやっぱだめなの? じゃあ、一瞬だけ! 一瞬だけカップルになって!」
一瞬だけ。本当は、ずっとそれでいたいけど、今だけは仕方ないよねっ!
「⋯⋯は?」
私のそんな心配をよそに、大輝くんの口はパカンと開いて、大輝くんフリーズしちゃってる。これって、私のせいかな?
「もーっ! なんども言わせないでよ!」
「⋯⋯いや、意味がわかんないから」
大輝くん、なんであんなにめんどくさそうな顔してるんだろ? 何か嫌だったのかな?
「はいっ! つべこべ言わないで! とりあえず行くよっ!」




