第74話 仕方なく
「大輝く〜ん!」
栞凛が片手を振りながら、僕の方へ向かって走ってきた。
そんな格好で走るなんて、転ぶかもしれないというのに。
「見て! この格好、どう!?」
栞凛は僕の前に来ると、くるくる回りながら、僕に自慢してくる。
「⋯⋯いいんじゃない?」
似合ってる、なんて言えるわけがない。言ってしまったら、どうなることやら。
消え入りそうな声で、僕は言った。
「なんか、つまんない返事だな〜。まっ、いいけどっ!」
栞凛は機嫌良さそうに僕へ笑顔を見せつけた。
「じゃあ、デート行こっか!」
「⋯⋯うん」
デート、か。
「あ、その前に、ん!」
小首を傾けながら、手を差し出す栞凛。ニコッとした表情で、僕に語りかけてきた。
「⋯⋯?」
僕が悩んでいるのを見てか、栞凛は口を出した。
「手、つなご? ⋯⋯せっかくのデートなんだし、さ?」
微妙に頬を赤らめながら、栞凛は言った。
「⋯⋯仕方なく、ね」
前の僕なら、きっと怪訝な顔を浮かべていただろうに、今では受け入れてしまっている。なぜか。
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「ここっ! ここのカフェ、すっごく美味しいんだよっ!?」
栞凛と手を繋いで、栞凛がよく通っていたというカフェにやってきていた。
「お金があったときは、よく来てたなぁ」
「⋯⋯今は無いんだ」
僕がそう言うと、栞凛との間に沈黙が流れていた。
「⋯⋯ノーコメントで」
栞凛は少ししょぼんとなりながら、肩を落とした。
「ううん! 今日は、たーっぷり、もらってきたんだ!」
栞凛は機嫌を取り戻したのか、急に大声になった。
「よしっ! それじゃあ、レッツゴー!」
栞凛は手をグーにしながら片手をあげた。
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「ねぇ、大輝くんは何が食べたい?」
栞凛はメニュー表を独占しながら僕に聞いてきた。メニュー見てないのに、わかるわけない。
「私は決まったよ。大輝くんは?」
「⋯⋯メニュー、まだ見てない」
栞凛は一瞬、ポカンとしたような表情になったが、すぐに我に返った。
「あっ、ごめーん!」
そういいながら栞凛は僕にメニュー表を手渡した。
「ん、ども」
僕はメニュー表に並ぶ4桁の数字を睨みつけながら、僕の財布と相談する。
⋯⋯どれも、たけぇ。全部4桁以上って。
僕はその数字に少し頭を悩ませていた。すると、1つだけ、僕にはすごい存在感を放っているメニューがあった。
3桁⋯⋯だと!?
僕の中ではちょっとしたお祭り騒ぎが起こった。
「決まった」
「わかった! あ、すみませーん!」
栞凛はちょうど近くを通りかかった店員さんを呼び止めた。
「あ、はい! なんでしょうか?」
メモ帳とペンを胸ポケットから取り出し、こっちに向かってくれた。
「えっと、これと、これ、お願いします!」
全部、栞凛が言ってくれた。すごく助かる。
「以上でよろしかったでしょうか?」
「うん! ありがとうございましたーっ!」
栞凛は店員さんにお礼をしていた。⋯⋯偉いなぁ。
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「お待たせいたしました」
丁寧な口調をしながら、僕らの目の前に頼んでいた商品を置いてくれた。
「それと、お客様。こちら、当店からのサービスです」
そう言いながら出されたのは、懐が悲鳴をあげそうなシェイクだった。そのシェイクには、たった1本のストローしかなかった。
「当店では、カップルでお越しのお客様限定で、シェイクのサービスをしています。それでは、ごゆっくり」
少し頭を下げると、すぐに立ち去ってしまった店員さん。
目の前には、期待を込めたような目をしている栞凛。何を考えているのやら。
「だーいーきーくんっ!」
ニコッと、ただ、どこか逃げられないような笑みを浮かべながら、栞凛は見つめてきた。
「――カップル、だってよ?」




