第73話 ワンピース
「ばいば〜い!」
「じゃあ」
私はとーっても大きく手を振って、大輝くんと別れた。大輝くんは、胸のあたりですごく小さく手を振っていた。――なんか、寂しいなぁ⋯⋯。
大輝くんはすぐに振り返って、家に戻っちゃったや。私も帰ろっと。私は振り返って、とぼとぼ歩いて家に向かった。
「⋯⋯」
何もしゃべらない私の背中に、少し心地良い風が吹いてきた。これくらいが、1番涼しいなぁ。
******
「はぁ〜」
私が家についたとき、思わずため息が出ていた。
「大輝くん、やっぱり気づいてくれなかったな⋯⋯」
せっかく校則を破ってまで三つ編みにしたのに⋯⋯。あんなに前髪整えたのに⋯⋯。とにかく色々、頑張ったのに⋯⋯。
「それも、大輝くんらしいっちゃ、大輝くんらしいけどさぁ?」
やっぱり、気づいてほしいじゃん?
「ううん! これは、大輝くんが私に課したミッションなんだ!」
髪型だけで褒めるなんて、甘ったれないで。洋服ぐらい考えてよ。
――ってね!
変な妄想って自覚はあるけど、これも大輝くんが悪いんだ! 何でもかんでも適当に大輝くんのせいにしても、大輝くんが怒らないから、いいの!
私はそうやって、全部を大輝くんの責任にした。
「デートの洋服、どうしよう!?」
私は部屋に直行して、クローゼットを開いた。――もちろん、流れ出てきた色んなものなんて、全部無視して。
「やっぱ、ワンピースにしようかな? うーん、スカートもいいなぁ。でも、ズボンも動きやすいよねぇ」
私は奥から引っ張り出したたくさんの洋服を、とりあえず適当に選別した。
「やっぱり、スカートかワンピースにしよ!」
だってさ、くるくる〜ってしたら、ひらひら〜ってなるしねっ。
「うーんと、じゃあワンピースにしようっ!」
ワンピースだと、上に着るもの選ばなくていい⋯⋯じゃなくて、全身可愛くなっちゃうからね!
私は1つワンピースを取り出して、身につけてみた。
「なにこれ〜! 私こんなワンピース持ってたっけ?」
私は鏡の前でくるくる回ってひらひらさせながらつぶやいた。
えーっと、あとは、髪型も決めなきゃ! 大輝くんに気に入ってもらわなきゃだしねっ!
「えっと、今日はあと、リンスとシャンプーと⋯⋯」
考えることが多くて、脳が爆発しちゃうかもっ!? うんうん! 全部、大輝くんのせいにすればいいんだ! 大輝くんを喜ばせたいから、大輝くんのせいにしーちゃおっ!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ふぅ。やっと、帰った」
バタッ、とベッドに飛び込みながら、僕はつぶやいていた。あのシャーペンを見るたび、栞凛の笑顔がしつこいぐらいに、脳裏に蘇ってくる。
僕はそんな気持ちを誤魔化そうと、勉強をした。
「こんなもので、気が紛れるなら、楽、だよね」
今日の栞凛は、なんか様子がおかしかった。校則破って髪型変えてたり、僕に隠してリップ塗ってたり。もうなにがなんやら。
「なんか⋯⋯違った、な」
僕はそれをずっと言い出せずに、適当に会話していた。
「でも、なんか、よかった、かも⋯⋯」
何かがよかった。いつもと違う、何かが。その何かを説明できるときは、僕にいつ来るのだろうか。
「⋯⋯どんな感じに、なるんだろ」
週末の栞凛を想像して微笑む僕がいた。
――なんか、いつもの僕じゃ、ない、みたい⋯⋯。




