第72話 お下がりがいい
「⋯⋯えっと、これ、誕生日プレゼント」
僕は誕プレが入った袋を渡した。
「ありがとっ! やっぱり、覚えててくれたんだっ!」
栞凛は上機嫌に、袋の中を漁っている。何かお宝を見つけたとでも言うような、輝かしい目をしていた。
「うわぁっ!? もしかしてだけど、おそろい!?」
栞凛はその袋の中に入っていた『シャープペンシル』を取り出した。
「ねぇ、これ新品?」
栞凛が確認するように聞いてきた。
「そうに決まって――」
「じゃあいい。これ、嫌だ」
「喜んでくれると思ってたよ⋯⋯って、え?」
今、『やだ』って⋯⋯。これじゃなかったかぁ。
「いや、だって、『使いやすい!』って言ってたから、いいかな、って」
僕は嫌われたくないがままに、適当な理由をつらつらと並べていた。
「新品は、いらない。大輝くんのお下がりがいい」
「じゃあ、僕がもらうから、何がいいか⋯⋯って、お下がり?」
お下がりって、あの⋯⋯? さすがに、違うよ、な?
「えーっと、筆箱、筆箱⋯⋯」
栞凛が勝手に人のカバンに手を突っ込んで、そうつぶやいていた。
「あ、あった〜!」
栞凛は僕の筆箱を取り出すと、さっきあげたばかりの、全く同じものを取り出した。
「大輝くん、これもらうね」
僕の筆箱から、勝手に僕の使っているシャーペンと、栞凛の使っていないシャーペンが入れ替えられた。絶対、新しいのを使ったほうがいいのに。
「そんなものでいいの?」
僕が念のため確認すると、栞凛は元気よく首を縦に振ってみせた。
「もっちろん! これが嫌なんて、言うわけないじゃんっ!」
「⋯⋯そ、そう、なんだ」
僕は少し驚きながら、そう反応した。新品の方が絶対いいのに⋯⋯。
「あ、そうだ」
栞凛は、何を思いついたのか、手をポンッと叩いた。
「私さ、他に欲しいものがあるんだ!」
「⋯⋯図々しいな」
「⋯⋯だめ?」
下から、何かを求めるような、あざとい視線で僕を見つめてくる。
「だめじゃ、ないけど⋯⋯」
「大丈夫っ! お金はかからないからっ!」
金がかからない? なら、まぁ、いいのか⋯⋯?
「大輝くんのさ、時間をね、もらいたいなーって」
「時間⋯⋯?」
時間なんて、あげれるもの、なのか? あげれるなら、あげたい、のかな⋯⋯?
「その⋯⋯さ?」
栞凛は下からの目線で僕に訴えかけてくる。
「で、デートとか、どうかな、って⋯⋯」
デート? 無理やり約束しなかったっけ?
僕は頭の中で『?』を思い浮かべながら、コクッとうなずいた。
「やった! やっぱ、今日じゃなくて、土日連続で、ね!」
「⋯⋯うん、まぁ、いいけど」
栞凛は大丈夫なのか? 勉強しなくて。受験だしさ。
栞凛は喜んで飛び跳ねまわっている。⋯⋯大丈夫みたい。
「どこ行く!? 何時からがいい!?」
上機嫌で陽気な声をあげながら、栞凛は目を輝かせていた。
「どこでも。いつでも」
「あ、じゃあ、ホテルにするっ!?」
「⋯⋯未成年2人じゃ、泊まれないんじゃ、ないかな⋯⋯?」
僕は栞凛の機嫌を損ねないよう、優しく伝えた。
「そっかーっ! じゃあお泊りでいいねっ!?」
ノリと気分だけで予定というものは決めてもいいのか?
僕は栞凛のペースについていけず、混乱している僕の言い訳をしていた。
「えっと、まずは親に聞かなかきゃ! だめって言っても無駄だけど!」
「⋯⋯意味ないじゃん」
僕がそうツッコミを入れると、栞凛はなぜか笑顔で返してきた。
「それぐらい、デートしたいってこと!」
「⋯⋯あっそ」
僕はそっけなく言った。
――僕の口角が、意識せず上がっていることなど、一切気づかずに。




