第71話 開けーっ、ごま!
「今日、何の日か知ってる!? 知ってるよねっ!?」
栞凛は詰めるように聞いてくる。
「⋯⋯世界観光の日」
9月27日、今日は、世界観光の日。でもある、らしい。これは、今日のために調べてきた。
「⋯⋯そうじゃなくてっ!」
バチン! という音と一緒に、僕の頭には衝撃が走った。
「あ、あわわわっ!? 大丈夫っ!?」
自分で叩いておいて、何を言っているんだ、栞凛は。
目の前で叩いた当本人とは思えないぐらいあたふたしている栞凛。一体、何を考えているのか。
「うん」
「でも、大輝くんが意地悪するんだもん! 仕方ないよね!?」
栞凛は、僕にそう迫ってくる。どうせ何を言っても、押し切られるだけだよね。
僕は反論するのを諦めて、仕方なくうなずいた。
「よしっ! いい子いい子!」
栞凛は、さっきぶっ叩いたところを撫でるように、僕をよしよしした。
「⋯⋯ちょっとだけ待って。僕、一旦帰る」
「えーっ! どうしてよっ!」
「⋯⋯内緒」
僕はボソリと、静かにそうつぶやいた。
そんな僕に、栞凛は何かを感づいたのか、ニコッと微笑んだ。
「じゃあ、待ってるね!」
「⋯⋯待ってる、でいいの?」
僕がそう言うと、栞凛はポカンとしながら、首をかしげた。
「私が、大輝くんの家に行けばいいの?」
「⋯⋯好きにすれば」
『いいよ』とも『だめ』とも言えなかった。どっちを言っても、嘘になりかねなかった。
「じゃあ、楽しみにしてて!」
「⋯⋯逆でしょ」
楽しみにしてるのは、栞凛の方じゃないか? ま、いいや。
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「おじゃましまーすっ!」
栞凛はガチャリとドアを開けて、ズカズカ家に上がってきた。
「入っていいなんて、言ってないと思うけど⋯⋯」
「まぁ、いいじゃんいいじゃん!」
栞凛は、どこか浮かれていて、すごく嬉しそうだった。こんなにうれしそうな顔、いつぶりに見たっけな。
僕は栞凛の笑顔を懐かしく思っていた。
「じゃあ、選んで。僕の部屋か、リビング――」
「大輝くんの部屋に決まってるでしょ!」
僕が言い終える前に、栞凛は割って入ってきた。
「じゃあ、来て」
「もっちろん!」
僕が栞凛を追いかけるような形で、僕の部屋に向かった。
「開けーっ、ごま!」
「暗号なくても開くから。開けて」
僕のその反応に、何か、不満があったのか、栞凛はふてくされていた。
「ノリ悪いなぁ。ま、大輝くんらしいけどねっ!」
うんうんとうなずいて、自分に納得したみたい。納得したならいいや。
栞凛はドアを開けて、僕の部屋を視線で1周した。
「はいはい、どいて」
僕はきれいに整えられた部屋を、ズカズカと突き進んだ。
「えっと、あったあった」
机の横にかかっていた、とある袋を手に取ると、僕は栞凛に向き直った。
「⋯⋯渡したいものが、あって」
僕はかしこまって、来客対応をした。
「うんっ! もちろん受け取るよっ!」
栞凛はヒュンッと、風がなるような速度で僕の手から袋をかっさらった。
「⋯⋯受け取る人の態度よ」
静かにツッコミを入れたが、今日ぐらいいいにしてやるか。今日は――栞凛の誕生日なのだから。
栞凛にはそんな僕の言葉なんて一切聞こえなかったようで、袋の中身に夢中だった。
「大輝くん、覚えててくれたのっ!?」
栞凛は期待を込めたような目で僕のことを見つめてきた。
「じゃあ、さっそく開けようっ!」
栞凛は顔を輝かせながら、袋の中身を無邪気に取り出した。
それは、実際よりも、少し幼く、可愛げがあった。
――喜んでくれると、いいんだけどな。




