第7話 で、なに?
「スマホ、持ってるよね?」
栞凛は一度しまったスマホを取り出してみせる。なぜこんなに堂々と違反ができるのか。
「持ってるわけ、ないでしょう」
僕は端的に返すと、うつむきながら、早歩きで歩き始めた。
「スマホはあとでいいけど、って、ちょっと早くない?」
栞凛の声もだんだんと小さくなっている。
だが僕はそんなの気にしない。変な関係だと思われたら、たまったもんじゃない。もう昨日の時点でだいぶ怪しまれてるかもだが。
僕は過去最高に早い時間で学校に到着した。クラスで1位だった。
「(ひどい目にあった)」
僕がカバンを開いた。それと同時に、教室の扉も開かれた。
「はぁ、はぁ、追いついた」
かなり息切れしてる栞凛だった。なぜ僕より息切れしているのかはわからない。
「今日は2位かぁ〜。惜しい」
まるでいつも1位のような口ぶりだが、普段の僕よりも遅い時間に教室へ入ってくるのを僕は知っている。
僕はそんなセリフに気を向けず、自分の支度に集中する。
「ねえ、なんで逃げるの?」
そうだ、隣だったのか、と僕は思い出す。すっかり忘れていた。栞凛が隣の席だということを。
それと同時に、僕は苦労の道を進むだろうと思った。
「まあ、変に見られたく、ないから」
「あぁ〜、それってぇ、つまりぃ、私のことを意識しちゃってる、ってことじゃん!」
なぜか栞凛の顔が赤くなった。僕の顔色は一切変わっていないだろう。
「疑いを持たれるのは、嫌いなんで」
僕はそっけなく、端的に答える。
今すぐこの場を離れたかった。だが、それが叶わない、現実は非情である。
僕には自分の席以外の居場所が一切ない。僕の唯一の安全圏だ。
ただ、最近はその安全圏の壁を真っ向から突き破ったやつがいる。それが栞凛というやつだ。
相手がどう思っているかは知らない。ただ、個人的な意見と言わせてもらうと、やめてほしい。
「あ、教科書全部忘れちゃったんだけど」
栞凛がカバンを覗きながら言っている。
僕には関係ないと本を読み始めた。もちろん、ギリシア神話だ。
「ねえ、教科書全部忘れちゃったんだけど」
まったく同じ言葉が聞こえる。明らかに僕に向けて言われている言葉だろう。
こっちからすると、だからなんだというのではある。言いたいことがあるなら言えってものだ。
「ねえ、教科書全部忘れちゃったんだけど?」
完全に僕に向けられている。もう一度言う。だからなんだ。
「おーい、生きてる? 教科書全部忘れたんだけど?」
だからなんなんだよ。無関係の人間を巻き込むんじゃねえよと思うばかりだ。
「大輝〜! 教科書全部ないんだけど〜!」
「で、なに?」
僕は仕方なく口を開くことにした。これ以上無視しても無駄ふぁと思ったからだ。
「『で?』って、なんとなくわかるでしょ」
なぜ僕が察しなければならないのか、わからない。
相手が敬意を見せなければいけないもののはずだ。
「教科書、見せてよ」
僕は、少し傲慢な態度の栞凛を正す。
「お願いをするとき、それはふさわしくないでしょ」
僕が冷たくそう言うと、ふてくされたような表情をした。
「見せてください。ありがとう!」
まだ返事を言っていない。なのになぜかお礼を言われた。もう強制だよこれは。
「⋯⋯」
「やっぱ大輝くんは優しいね!」
少し顔が赤らんでいる。
なにに緊張しているのだろうか。それとも、怒っているのか。
僕は聞かなかったことにして顔をおろした。
外野もなぜかうるさくなってきた。
「2人、付き合ってんの? 罰ゲームかなんか?」
「あんな陰キャが付き合えるわけねえだろ?」
「確かに。それもそうだ。じゃあなんなんだ?」
そう誰かの嘘の噂をてきとうに話しているやつの考えを知りたいと思う。




