第69話 期待してるよ?
「ふんふふーんっ!」
私はスキップしながら洗面所に向かった。私はこのとき、すっごく、気分がよかったんだ!
「今日は、私のー、誕生日〜!」
今日は、待ちに待った⋯⋯わけじゃないけど、私の誕生日何だもんっ!
「大輝くん、覚えててくれるかな⋯⋯?」
鏡に写る私は、いつもより、とっても浮かれているようにも見えた。
「今日は、頑張らなきゃっ」
私はいつもよりも、すごく早く起きていた。まだ、窓から太陽が顔を出してないし。
「洋服はこだわれないけど、まずは髪の毛だよねっ!」
私は鏡を見ながら、いつもよりめちゃくちゃこだわって前髪を作ったし、今日はもしかしたら雨かもしれないし、ちゃんと固定しないとっ!
私は前かがみになりながら鏡を覗き込んだ。
「髪型、ちょっとだけ変えようかな⋯⋯!」
私はいつものポニーテールに、少しアレンジを加えることにした。
「⋯⋯よしっ! あ、前髪がちょっと崩れた!?」
私がアレンジへ意識を向けていると、前髪がいつのまにか崩れていた。
「もーっ! ちょっと大変だったのに!」
私はもう一度、前かがみで鏡を見つめた。くしも取り出して、前髪を整えた。
「えーっと、今日は予備も持っていかなきゃっ! 手鏡と、くしは、えーっと、あった!」
私はその2つを、筆箱の中と、制服のポケットにセットで入れた。
私は、なんでこんなに準備にこだわってるんだろう? まあいいやっ、大輝くんが喜んでくれれば、それで。
「あと、あ!」
私はとあることを思い出し、みんなの寝室に向かった。
寝室につくと、ちょうど目を覚ましたママが、廊下に出てきた。
「あら、今日はデート?」
ちょっとわざとらしくママは聞いてくる。
「⋯⋯デート! って言いたかった」
「今日は、栞凛の誕生日ですものね。期待してるんでしょ?」
ママは、私の考えなんてわかってるみたい。さっすが、親子って感じ!
「でも、確か三つ編みは、だめじゃなかったかしら?」
「そう、だっけ?」
⋯⋯なんか、そんな気がする。やばい、どうしよう⋯⋯。せっかく準備したのに⋯⋯。
「まぁ、大丈夫よ。きっと」
私は三つ編みを肩にかけて、先の方をくるくるいじってみせる。
「ねぇ、リップ貸して! 色のやつ!」
私がそういうと、ママはケラケラと笑っていた。
「なんで笑うのっ! 恥ずかしいじゃん!」
「なんでもないわよ。はい、リップ」
私はママからリップを受け取ると、ポッケにしまった。
「ねぇママっ!? 前髪大丈夫だよね!? 三つ編みも崩れてない!?」
「大丈夫よ。それに、あの子のことだから、ちょっとぐらいなら、大丈夫よ」
ママは気安くそうやって言う。本当に、気付かないかもしれないけどっ!
「嫌なの! それは、私がなんか嫌なの!」
せっかくここまでやったんだもん。最後までこだわらなきゃねっ!
「あらそう? ならいいかもしれないけど」
ママも、ようやく納得してくれたみたいだし、準備をしなきゃっ!
******
出発時間が目前になって、私は最終確認をする。
「大丈夫!? どこも崩れてないよねっ!?」
洗面所の鏡を、何度も見に行っちゃった。もし、天気で崩れちゃったら、どうしよう!?
私は隅々まで、めっちゃ確認した。多分、大丈夫! うん、多分!
「ママ! このままで大丈夫だよねっ!? おかしくなってないよねっ!?」
私が思いっきりママに聞いたら、ママは口に手を当てて、面白おかしく笑ってきた。
「大丈夫よ、きっと。母さん、応援してるからね」
ママはちょっと微笑んで私を見送ってくれた。
――ふふ、期待してるよ?




