第63話 ご主人様?
しばらくが経ち、ついにあの日がやってきた。
「文化祭だよっ!? 私昨日全然眠れなかったんだよ!?」
「⋯⋯う、うん」
適当に相槌をうつ。なんて答えていいかも知らないし。
「⋯⋯あ、宮下さ――」
「ねぇ大輝くんっ! ほら! 学校着いちゃったよ!?」
宮下さんは、学校の柵に背を預け、さびしそうに何かを待っていた。僕が宮下さんに声をかけようとしても、栞凛はなぜかそれを防ごうとする。
「⋯⋯ちょ、ちょっと――」
僕はたった今、宮下さんと一瞬だけ、目があった。本当に、瞬間だけ。
宮下さんはすぐに目を逸らし、そそくさと、校舎の方へ逃げるように走っていった。
――どうしたんだろ。最近はあっちがおかしくなっちゃったけど。
僕にはどうすればいいのか、よくわからない。こんな気持ちを、ほとんど感じたことがなかった。感じる必要がなかった。
「よしっ! いなくなったから、レッツゴー!」
栞凛は、得意満面の笑みを浮かべていた。
「⋯⋯ま、まぁ、うん」
僕は小さく返事をして、栞凛についていった。
******
「メイド喫茶でーす! 可愛いメイドたちが待ってますよー!」
宣伝の声が聞こえる。まだ始まったばかりで、客はいない。僕はすることがないらしく、教室を追い出された。
「⋯⋯暇だ」
廊下に置いてある椅子に腰掛けた。
「あいつらでも、見に行くか」
僕はすぐに立ち上がり、自分の教室へ向かった。
始まったばっかだが、少し列ができていた。
「うお、やっぱり来たww」
クラスの集客係は、僕を見て笑いやがった。――なんかついてる? 僕は髪を色々見たが、何もついてない。
「彼女さーん! 来たぜー!」
教室の扉の開いた隙間から、集客が声を掛ける。
内側から扉が開かれ、出てきたのは――。
「あ、だーく⋯⋯ご主人様、来てくれたの?」
宮下さんだった。⋯⋯なーんだ。
「ささっ! 入っていいよ〜!」
なぜか宮下さんは、僕を入れようとする。まだ、並んでる人がいるっていうのに。
「僕じゃないから。先いるでしょ」
僕は宮下を避けて、列の最後尾に並んだ。
「もーっ」
宮下さんは、明らかにふてくされた顔をしたが、素直に先頭の人を案内していった。
「彼女さんなら、心配すんな」
集客係はこっそりと僕に耳打ちしてくる。別に心配は⋯⋯してない。と思う。
――まぁ、栞凛なら、気軽に話せるし、いいか。
******
「次の人、どうぞー」
ようやく、僕の順番になった。僕は、少し硬い引き戸を、優しく、ゆっくりと開いた。――時間稼ぎでも、してるかのように。
「なんか、緊張するな⋯⋯」
僕は、この空気の中、うるさいほどに暴れる胸の高鳴りを、抑えきれていなかった。
落ち着け⋯⋯! 落ち着くんだ、僕。
僕が念を唱えても、無意味だった。それどころか、僕の心臓は、とどまるところを知らなかった。1回1回の鼓動が、ドクンと、すごく大きくなっていた。
「⋯⋯ただの、緊張だ。落ち着け⋯⋯」
僕はゆっくりと店内へ足を踏み入れた。店内は、ピンクを基調とした、ポップな雰囲気に包まれていた。
「⋯⋯っ。ご、ご主人、様。おかえり、なさい、ま、せ⋯⋯」
僕は、前を見れなかった。見てはいけない。見たら、僕が変になってしまうと感じた。
「⋯⋯あ、あの、ご、ご主人様、お顔をあげていただいても、よろしい、ですか?」
それを言うメイドの声も、かなり高ぶっていて、興奮していた、ような気がする。




