第60話 僕が悪い⋯⋯?
「ねぇ」
僕はボソボソとつぶやきながら、栞凛の背中をトントンとつつく。
僕が呼んでも、机に突っ伏している栞凛から、返答がない。
寝てんのかな⋯⋯。
起こすのはかわいそうだと思い、それ以上つつくのはやめた。
栞凛は、宮下さんと会ったあの日から、様子がおかしくなった。
あんなにうるさかった僕の日々に、静寂が訪れる――と思ったのは間違っていた。
「だーくん! 放課後空いてる?」
宮下さんのせいだ。宮下さんは、僕の肩を掴んで、引っ張ってくる。宮下さんは、まるで栞凛から僕を引き離すように、引っ張った。
「⋯⋯今日は、無理。予定ができた」
「⋯⋯そ。わかった」
宮下さんは、少し悲しそうにうつむいた。――すぐに機嫌を取り戻し、僕の腕を引っ張った。
「じゃあ、教えてほしいことがあるんだよね」
「⋯⋯うん」
僕は断れず、渋々うなずいた。今も、栞凛はまだ机に伏せていた。
体調でも、悪いのかな⋯⋯。
そう思っても、もう遅い。僕は宮下さんに連れられた。
宮下さんは席に着くと、自分のノートを僕に見せつけてきた。
「見てこれ! 頑張ってまとめた自主勉ノート!」
まるで見せびらかすように、僕に見せつけてくる。宮下さんは、何がしたいのだろう。
******
「さようなら」
「さようなら!」
みんなの声が重なって、よく耳に響く。即座に教室を出る人もいれば、また座って話し出す人もいる。
「だーくん! あのね⋯⋯」
急いでる僕を、なぜか止めようとする宮下さん。
そんな宮下さんを、僕は無視した。そのまま、急いで教室を出た。あの影を追いかけて――。
******
「ふぅ、追いついた〜」
ようやく、追いついた。栞凛のところへ。
僕は、すぐに教室を出ていった栞凛を、なんとか捕まえた。栞凛の肩を掴んで、呼び止める。
「何。女の子の肩に、気安く触れないほうがいいんじゃない?」
栞凛は、こっちに見向きもせず、歩道のない道路をまた歩き出そうとした。
「え? あ、確かに」
僕は急いで、掴んでいたその手を離した。
「じゃあね」
その短い一言とともに、栞凛が走り出した。
僕が手を離した直後の出来事だった。あの栞凛が、僕から逃げるなんて、珍しい。
「待って!」
僕の口からは、思わず大声が出ていった。
僕の必死な呼び止めに、栞凛は反応してくれる。
「何?」
栞凛は、そう言いながらも、振り向く素振りすら見せてくれない。
「なんかあったの?」
僕は、少し離れた栞凛のところへ、小走りで向かった。
最近、なぜか栞凛の様子がおかしい。特に、僕への態度だ。
「別に」
栞凛はそれだけ言って、また歩こうとした。
「嘘」
僕の直感がそう言った。直感がそう言う、それと同時に僕は、栞凛の細い腕を掴んでいた。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
2人の間に、長い静寂が訪れる。
「僕でよければ、聞くよ」
僕は優しくそう呼びかけた。でも、栞凛から返ってきたのは、以外な返事だった。
「⋯⋯全部、大輝くんが、悪いんだから」
僕が⋯⋯悪い?
少し振り返ってみても、栞凛に嫌われるようなことをした覚えはない。何がいけなかった。何が――。
「大輝くんが、冷たいんだもん⋯⋯」
そういう栞凛の顔は、淡いピンク色をしていた。
「僕が⋯⋯冷たい⋯⋯?」
僕が、栞凛に冷たいのは、いつもだと思う。ただ、それで栞凛が僕から離れたのなら、直したい。
そうすれば、僕にも、栞凛にも、メリットがある――そう思っていた。




