第59話 羨ましくて――
「大輝くんっ! 教えてっ!」
私は図書館で、大輝くんに抱きつこうとした。
そんな私を、大輝くんはひらりとかわしてくる。
「そこ、さっき教えたじゃん」
「わかんなくなっちゃったの!」
私が対抗するように言っても、大輝くんはわかってくれなかった。
「だーくんっ! ここ教えて」
「ん? いいけど」
ああやって、馴れ馴れしく呼んでるの、あの小春ちゃん、すごく羨ましくて、すごく憎たらしくて、すごく邪魔なような、色んな気持ちが混ざったような、そんな感じだった。
「あーっ! そういうことかー! だーくんありがとっ!」
「⋯⋯うん」
大輝くんは、後ろの髪をいじりながら、小春ちゃんに接していた。⋯⋯いいなぁ。
「大輝くんっ! 教えてよっ!」
私は、小春ちゃんから大輝くんを引き剥がしながら、そう言った。
「⋯⋯はぁ。どこ?」
大輝くんは、なぜかため息をついた。ひどい、私とお話するの、そんなに嫌かな?
「⋯⋯う、うん。えっと、ここ、なんだけど⋯⋯」
もう、大輝くん、怖い⋯⋯。なんで、そんな目で見るの?
大輝くんは、すごく気だるげな顔だった。小春ちゃんと話すときは、全然そんな顔しないのに⋯⋯。
「ここ、さっきの応用。簡単」
すごく、大輝くんが不機嫌そうなの。なんか、怖いんだけど⋯⋯。
「あーっ! そういうことっ!?」
本当は、一切理解してない。だけど、大輝くんが、すごく不機嫌そうなんだもん。多分、私とお話するの、嫌なんだよね。無理やり話しかけちゃった。大輝くんの気持ちを、優先しないと。私より、大輝くんのほうが、大切⋯⋯だから。
「これでわかったんだ。珍しくはやいじゃん」
大輝くんはそれだけ言うと、すぐに目を逸らしちゃった。目すら、合わせたくないんだ。私、やっぱり、嫌われてるのかな⋯⋯。
私はうつむいてしまった。大輝くんと、目を合わせないようにした。
「⋯⋯はぁ」
私の口からは、思わずため息が出てしまった。私、どうすればいいのかな⋯⋯?
******
「じゃーな」
大輝くんが片手をあげながら、手を振ってくれた。私はそれに、振り返せなかった。
「⋯⋯」
私は大輝くんの背中を、ただじっと見つめることしかできなかった。小春ちゃんと大輝くんは、今も一緒に帰っている。
大輝くんも、なんかすごく、楽しそうに話してるような、気がした。
あの2人の方が、お似合い、だよね⋯⋯。
私は諦めて、家に入る。
「おかえり!」
リビングからは、元気そうなママの声が聞こえる。それと同時に、私の大好きなカレーの匂いがする。
私は、母親を無視して、そそくさと自分の部屋へ向かった。
ガチャリ、という音が、心に虚しく響いた。
「はぁ」
私は大輝くんと一緒に片付けた部屋へ入る。そこに転がっていたぬいぐるみに、私は顔を埋めた。
「私より⋯⋯そうだよね」
私からは、蚊の鳴くような声しか出てこなかった。
「栞凛ー! ご飯よー!」
下から、ママの声が聞こえてくる。
そんなママの声も、大好きなカレーも、今の私を癒やす材料にはなってくれない、そんな気がした。
私は重たい足を持ち上げ、階段を降りていく。
食べれば、元気に、なれるかな⋯⋯。
私にも、この感情はよくわからなかった。今まで感じたことのない感情だった。
私はリビングの扉を開けて、机へと向かう。
「いただきます」
ボソボソとそう言い、スプーンを手に取った。ただ、その手は進まない。一向に、口へ運ぼうとしてくれない。
そんな私に、ママは違和感を感じたのか、こう聞いてきた。
「最近どうなの? あの子とは」
私の心に、深く鋭い何かが突き刺さった。
――もう、どうせ嫌われたんだ。




