第57話 難しい2人
「あーっ! 終わったー! 2つの意味でね!」
栞凛が両手を広げながら言う。
「夏休みの宿題?」
「あ、それはもう諦めた」
「えっ!?」
驚くような声を上げたのは、僕ではなく、宮下さんだった。
「そんなことより模試だよ模試! あれむずすぎない!?」
僕と宮下さんは、顔を見合わせた。どういうことなのだろう。何が難しかったのか。
「そう、かなぁ?」
「まぁ、手応えはあったよ⋯⋯ね?」
宮下さんは、栞凛をフォローするように言った。やっぱり優しい、この人。
「手応えじゃなくてっ! あんなのエジソンでも解けないよー!」
「そ、う、かな?」
さすがの宮下さんでも、フォローが厳しいらしい。答えを求めるように僕の顔を見つめてくる。
「ま、今までの積み重ねだな。文句なら昔の自分に言え」
「⋯⋯もーっ! 全部大輝くんが悪いんだよっ! 大輝くんが、私といるから!」
いくらなんでもこじつけすぎる。⋯⋯待てよ。
「僕が悪いよ。そうだね。だから、じゃあ――」
「やっぱ悪くないっ! 悪いのは、そうだ、時間だ! 時間がないからだ!」
僕はそんな栞凛の言葉に、頭を抱える。やれやれと言う風に首を振った。
「じゃあ、頑張ってくださいねっ」
宮下さんが、少し微笑みながら言った。誰にでも優しい人って、いいよね。
「ねぇ、じゃあさ、お勉強会開こっ! 私と、2人で」
なぜか人数を強調する栞凛。よくわからんなぁ。何をたくらんでるんだか。
「だめです! 私と、2人きりで、です!」
宮下さんも、なぜか栞凛に対抗するように言った。
この2人は、何がしたいのか。⋯⋯わかんね。
僕は理解することを諦めた。
「誰かとやりたいだけなら2人でやってくれば? 息ぴったりみたいだし」
僕は提案してみる。僕1人でやったほうが、多分捗る。そうやって、直感が。
「だめっ!」
「だめですっ!」
2人は同時に言った。机に手をついて、まったく同じポーズをする。
「ま、真似しないでよねっ!」
「真似しないでくださいっ!」
やっぱり、仲良しだなぁ。結構気が合いそうだけど。
「わかったよ。3人で、な?」
僕がそう提案する。2人はなぜかふてくされたような顔をした。
「⋯⋯はーい。ちぇっ」
「⋯⋯わかりましたよぉ。なーんだ」
なんだよこの2人、わかんねぇ。
「なんだあいつ、女子2人に囲まれただけで、イキりやがって」
「それな。マジうざい」
そんなような会話が、耳の中に飛び入ってきた。
「あ、そうだ――」
その生徒は、もう1人の生徒に耳元で何かを囁いていた。
何をしゃべったかは、わかんない。
「じゃあ、今週末、図書館来て! 3人で勉強しよっ!」
珍しく栞凛がいい提案をするなぁ。実に珍しい。
「そうですね! はぁ⋯⋯」
「そうしよっ! でもなぁ⋯⋯」
何がそんなの嫌なんだ、この2人は。難しいなぁ。
僕に女心などわからない。そういうのを、求めないでもらいたい。⋯⋯求められてはないか。
「そんな嫌なら、別にいいけど?」
僕はそう判断した。なぜか唇を尖らせていたもので。
「違うもんっ!」
「違いますっ!」
なんか、こういうときだけ仲良くなるんだよなぁ。
「⋯⋯でも、なぁ」
「⋯⋯そう、ですねぇ」
2人は揃えて、頬を膨らませている。仲いいな、やっぱ。
「何がそんな嫌なの?」
僕は思い切って聞いてみた。
「えーっとね⋯⋯」
「うーん⋯⋯」
栞凛と宮下さんは、ゆっくりと首を動かした。かたつむりのような速度で。
「あっ」
「あっ」
2人の声が重なった。同時に、2人の目がバッチリ合っていた。
――そういうことね。僕は理解した、つもりで処理した。理解するのがめんどくさい。




