第55話 仲良しな口論
「ここは、こうやって⋯⋯」
僕は、宮下さんに色々と教え込んでいる。あいつとは違って、すぐ理解してくれて、すごく助かる。
「わかりました! すごくわかりやすいですね!」
「あぁ、いや、別に⋯⋯」
僕には何がわかりやすいのか、よくわからない。まぁ、そう思ってくれるなら、それでいいか。
「次私ねー!」
「⋯⋯はぁ」
栞凛が僕の腕を引っ張ってきた。それに、思わずため息が漏れる。
「なんでため息つくの!?」
「⋯⋯別に」
実を言うと、栞凛に教えるのは、めんどくさい。話は聞かないし、理解はしないしで。
「で、どこ?」
「えっとねー、ここっ!」
栞凛はワークの問題を指さしながら言った。
「ここは⋯⋯」
******
「あ、もうこんな時間だ!? 帰らなきゃっ!」
栞凛は待ってましたと言わんばかりの速度で、支度を始めた。
「宮下さんは? 帰れる?」
今も熱心に勉強している宮下さんには、聞こえていないようだった。
「ちょっと、言ってきて。僕じゃ触れにくいから」
僕は、意気揚々と帰りの支度を始めた栞凛にそう言った。
「うん! 大輝くんに汚いものがついちゃうもんねっ!」
「⋯⋯汚いって、失礼」
人を汚い呼ばわりなんて、とんだ最低な人間だ。
「小春ちゃんっ! かーえろ!」
「わぁ!? あ、すみませんっ!」
驚いたような表情を見せたあと、急いで頭を下げる宮下さん。やっぱり、栞凛とは違うな。
「ううん! もう大輝くんに近づかなきゃ、許してあげるっ!」
「⋯⋯それは、約束できないと思います」
なぜだ。これ以上、僕なんかと関わらなければいいという、単純な話ではないか。
「ふぅん? じゃあ、乙女の勝負! 受けて立つからっ!」
「私も、受けて立ちますよっ!」
これが、何の意味をなしているのか、僕には得体のしれないことだった。
「とりあえずさ、帰らない? そろそろ完全下校だし」
これ以上放置したら、いつまで続くかわからない戦争に、終止符を打った。これで止まるかは、知らないけど。
「大輝くんがそういうなら、もちろん!」
「は、はい! わかりました!」
2人はまるで競い合うように言った。何にムキになってるんだろうか⋯⋯。
「じゃあ、私と一緒に帰ろっ!」
「その⋯⋯私と一緒に、帰りませんか⋯⋯?」
顔を赤らめながら言う宮下さん。当たり前のことのように処理しようとしてる栞凛。
この2人、本当、何がしたいんだろ。
「⋯⋯えっと、2人で、帰れば⋯⋯?」
僕はその2人を交互に見つめながら言った。
「もちろん! 私が大輝くんと帰る!」
「⋯⋯い、いいんですか!?」
口を揃えて言う2人。本当に、仲が良さそうで何よりだ。
「じゃあ、僕はこれで――」
「なんでよっ!?」
「置いて帰らないで、ください⋯⋯」
僕の左手は宮下さん、右手は栞凛に掴まれて、逃げ出せなくなった。
「えっと、仲のいい2人が一緒に帰れば、いいんじゃ⋯⋯」
僕にはわからなかった。なぜ僕みたいな部外者が一緒に帰らなければならないのか。
――そして結局、3人で帰る羽目になってしまったわけだが。
「先に小春ちゃんの家に行ってから、私の家ねっ!」
「え、なんでですか? 私の家遠いですし、後でいいですよ」
なぜか、僕を挟んで2人の口論が繰り広げられていた。
「どっちでもいいでしょ」
どうでもいい争いだなぁと思いながら聞いていた。僕にはこの口論の重要性が理解できなかった。
「だめっ!」
「だめですっ!」
声を揃えて言う2人。どんだけ仲良しなんだか。




