第54話 教室の、3つの影
「さっきから、ずっと聞いてないじゃん。もう帰ろうかな」
「だめ! ぜっっっったい、だめ!」
なんでや。僕の話を聞いてないくせに。
「さあ、早く、教えなさいっ!」
「なんでそんな上から目線なのよ」
「⋯⋯っ、いいのっ!」
僕の話を無理やり遮るように、首を振っている。
(はあ、もういいや。適当で)
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「自覚あるだろー。まだ終わってないやつは居残りなー」
やる気のなさそうな、どこか残念そうな口調で先生が言う。
隣には、開いた口が塞がらなくなっている栞凛がいる。
(結局あのあと、こいつは居眠りして、僕は呆れて帰ったんだ。そうなるに決まってる)
「さようならー!」
全員が挨拶を済ませ、教室を出ていく。
僕もそれについていきたかった。それができなかった。
「大輝くんは、だめだよ? 居眠り、ね?」
腰に手を回され、逃げられなかった。
「えぇ⋯⋯」
僕は周りを見渡し、助けを求めようとした。
どうせ――誰もいない教室に。
誰もいない――はずだった。こいつは除いて。
(珍しいな、真面目そうな子なのに。えっと、名前なんだっけか⋯⋯)
「よろしくお願いします」
「あ、あ、ど、どうも」
軽い会釈だけして、僕はすぐに目をそらした。
なんか、獲物を見るような目で見られてたような気がするんだけど⋯⋯、気のせい?
「えぇっ! 小春ちゃんもいるの!?」
(あ、思い出した。宮下小春だっけな)
「うん⋯⋯」
「珍しいね、真面目な小春ちゃんが、宿題やってないなんて」
栞凛が興味津々で宮下さんに近づいていく。こいつは何がしたいのだろうか。
「え、どうしたの? なんかあったの?」
「ううん。何も。お父さんが1ヶ月ぐらい海外出張が決まっちゃって。で、夏休みだから家族みんなで行くことになったの」
宮下さんは、淡々に話を進めている。
「だけど、宿題を家に忘れちゃって。一昨日帰ってきたばっかなの」
偉いよ。あなた。この、ただサボってただけのやつに比べたら、全然マシ。
「じゃあ、今日は3人で居残りだねっ!?」
「なんで僕まで巻き込むのさ⋯⋯」
仲良さそうな2人が一緒なのだ、僕ぐらい帰っても変わらないでしょ?
「いや、2人いるなら、いいかなって」
「だめでしょ!」
「だめ、です!」
え、今、なんて⋯⋯。
「だめ、です!」
大事なことだから2回言わないと、って、え?
「えっと、宮下、さん?」
僕が恐る恐るたずねてみる。
だが、本人は何も違和感はないようだった。
「どうかしましたか?」
にこやかな笑顔で話しかけてくる。
「ストーップ! 今すぐ始めないと、間に合わないよ!」
こいつはもう完全アウトやろ。あと300ページぐらいあるなんて、終わるわけない。
栞凛は僕らの会話を遮るように間に入り込んできた。
「そう、ですね⋯⋯」
宮下さんは、少し肩を落とした。⋯⋯ん? なんでだ?
「じゃあ、ここ教えて!」
ワークをまだ開いてもないのに、栞凛が言った。せめて問題を見てからにせいや。
「あれー? ワークどこ置いたっけなあ?」
栞凛がカバンをガサガサと漁っている。
「あ、あの、私にも、教えてくれませんか?」
宮下さんが、僕にしゃべりかけてきた。
「あ、あぁ、うん。いいけど⋯⋯」
「ありがとうございます!」
と、素直に頭を下げる宮下さん。偉い。
流れで了承してしまった。まあ、栞凛に教えるよりは、断然価値は高いだろう。
「あーっ! 私が先に予約したのにーっ!」
栞凛が宮下さんを睨みつけている。
宮下さんはそれに対し、恐れることを知らなかった。なんなら、勝ち誇ったかのような顔を見せていた。




