第53話 300ページ。うん。
「で、どうやって取り出すの?」
栞凛いわく、いつ爆発しても文句を言えないクローゼットに入っているかもしれない、だそうだ。
「それを、天才大輝くんが考えてくれるんだよ!」
「天才はそもそもこんな詰め込まないよ」
「いるかもしれないでしょっ!」
いたとしても、どうせごくわずかだろう。少なくとも、少数派ではあると思う。
「それはいいとして、考えてよっ!」
「自分で考えるものでは?」
僕に任せたら、このパンッパンに膨れ上がったこのクローゼットを開けるしかできない。
「もーっ! 後悔しても知らないよ?」
と、栞凛は半分開きかけているクローゼットの取っ手に手をかけた。
「ちょっと待って。離れておくから」
「離れるなんて、絶対許さないもんねー!」
部屋から逃走しようとする僕を、栞凛は止めた。
「もう、知らないからっ! えいっ!」
扉が開くのを今か今かと待ち望んでいたのが、雪崩になって降ってきた。
「うわわわわっ!? なんか倒れてきたああああ!?」
「ほら、いわんこっちゃない。こんなのわかりきってたじゃんか」
栞凛は当然の報復を受けてもなお、元気でいた。
「じゃあ、お宝探しね。ワーク、探して」
「え!? お宝探し!?」
中々にチョロいな、こいつ。
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「あったーっ! 私の勝ちっ!」
「ヘーヨカッタネー」
「なにそれ!? 棒読みじゃん!」
なんや、別にいいやろ。
何もかもを面白おかしいように処理すんのか、こいつ。
「ちょっとワーク貸して」
「解いてくれるの!? もちろん!」
「なわけねえだろ」
栞凛からワークを受け取ると、全教科答えを抜き取った。
「あーっ! 窃盗! 泥棒だーっ!」
そうか、そうか。そういうんだな、こいつは。
「じゃあね。泥棒は大人しく帰りますよ」
「だめーっ! 泥棒じゃないでしょ!」
さっきと矛盾しとるよ。もう、言ってることですらもう右往左往してるやんけ。
「ま、それはいいとして。本当に白紙じゃん」
僕は栞凛のワークをパラパラとめくりながら言った。
「名前すら書いてないし」
「だってどうせやらないかなーって!」
栞凛は自信満々で答えた。
せめて危機感持とうよ。少しでもいいからさ。
「えっと、確か、今日まででどの教科も60ページぐらいまでは進んでるはずなんだけどなあ」
僕の記憶が確かなら、大体そのくらいだ。
「えっと、じゃあ、60×5で、300ページもあるのーっ!?」
「今までやってきてないからだろ」
冷静に突っ込んだ。
「ねえ、ワークが見つかったのはいいんだけど⋯⋯」
僕は外部からの刺激で破裂したクローゼットを見る。
中身が散乱していて、何年も放置されているようだった。
「ん? 片付けてくれるんでしょ?」
「えー⋯⋯」
僕は断ろうとしたが、一瞬止まった。
(これ、片付けてればこいつに教えなくて済むのか⋯⋯?)
「いや、うーん、教えなくてもいいなら、いいけど」
「えーっ! じゃあいい!」
「⋯⋯うん」
僕はその散乱した洋服たちを踏んづけて、栞凛の元へ向かった。
「じゃあ、まずここ! 数学からっ!」
「はいはい」
僕は白紙のワークに解説を始めた。
栞凛はその僕の説明を⋯⋯、聞いているのか?
「え、聞いてる?」
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯え?」
僕が確認のため、栞凛の方を見ると、目が合った。
「え? 聞いてるよね?」
「あ、え、あ? も、も、もちろん、だよ!」
僕は、目を泳がしている栞凛を、半分開いてない目で見つめた。
「⋯⋯嘘だよね?」
「⋯⋯」
「⋯⋯どっち?」
「⋯⋯聞いてるよ? でもさ、大輝くんの顔がかっこよすぎるのも悪いと思うよ?」
見苦しい。実に見苦しい。
「僕をかっこいいなんて、見る目ない」
「ううん!」
「そんなこといいから。続きやるよ」
これがどれたけ続くのか⋯⋯僕は、知るよしもなかった。




