第52話 最低級レベル
「ほらっ! 食べて!」
そう言って僕の前に出されたのは、これぞ和食、って言うようなものだった。
「ご飯と、味噌汁と、目玉焼き! 上手でしょ?」
「えぇ⋯⋯」
まだ食べてもねえよ、と思いながら、僕は箸を手に取った。
食べようと思っても、手が進もうとしない。なぜか、ジロジロ見られている気がする。
「そんなに、見ないでよ」
「えー、いいのっ!」
そっちはいいかもしれないよ? 僕が嫌なの。わかる?
「はぁ。もういいや」
僕は諦めて、栞凛の視線に耐えながら、ご飯を食べることにした。
「どう? おいしい!?」
「うーん。外野がうるさくて⋯⋯」
「外野!? 私か黙らせてくるから!」
まさかこいつ、自覚がねえ!? 自分だと、気付かないか。都合いい思考だなあ。
「待ってて! 外見てくる!」
「あ⋯⋯うん」
ドタドタと足音を立てながら、急いで扉を開けて外に飛び出ていった。
「ふぅ。これならゆったり⋯⋯」
「誰もいないじゃん!」
そんなすぐ戻ってこないでくれ。ゆったり食べられないじゃないか。
******
「ごちそうさま⋯⋯」
僕が食べ終わったと同時に、栞凛が食べようと自分の分を持ってきた。
「あー、箸忘れちゃった〜。それちょうだい?」
「え、これ? 待って」
僕は一度流しに持っていき、水で流そうとした。
「いいよ流さなくて! あとでやっとくから!」
「僕が一度使ったから、さすがに洗わないと⋯⋯」
僕は栞凛の話を聞かず、箸を水で流そうとした。
「だめだよ! だめったらだめなの!」
「⋯⋯なんで?」
一度手を止め、理由を聞いてみた。どうせくだらないことだろうけど。
「間接キ⋯⋯スじゃなくて、とにかく! いいの!」
僕がポカンとしていると、手で持っていたはずの箸がなくなった。
マジで、もうよくわからんやつやな、こいつ。
「ふふーん! 大輝くんと、ふふっ!」
栞凛は箸をペロッと舐め、それからご飯を食べ始めた。なんとも行儀が悪い。
「う〜ん? やっぱ、大輝くんの料理の方がおいしいや」
自分で作ったはずの料理にそう文句を垂らしている。
僕は三つ星レストランのシェフじゃないねん。
「あ、宿題やっておいてくれても⋯⋯」
「やらないよ」
僕は即答した。というより、喋ってる間に言った。
絶対やらない。自分でやるもんだよ、そういうのは。
******
しばらくして、ようやく栞凛の昼ご飯が終わった。
「やっとか。遅い」
「ごめ〜ん!」
もう心こもってないやん。
「さ、宿題を写さないとね!」
「教えてあげるから、自分で解くんだよ?」
「えーっ! 大輝くんのケチー!」
唇を三角形にして、ふてくされたよ、こいつ。
「当たり前でしょ。自分でやるものなんだから」
「⋯⋯はっ! 私、天才かも!」
⋯⋯どうせまたくだらんことだろ。答え写すとか、それくらいしか思い当たらんが。
「答えを写せばいいんだ!」
それを聞いたとき、僕は思わず吹いた。
まさか、本当に答えを写すだとは⋯⋯。
「何笑ってるの!? 私の最高級のこの考えに!?」
どこが最高級やねん。なんなら最低ぐらいまであるよ。
「まあ、とりあえず、私に教えて!」
「とりあえずて。まあいいけども」
僕と栞凛は階段を登り、栞凛の部屋へ向かった。
「くふふっ! 楽しみ〜!」
(こいつ、どうせまたなんかよくわからんことでも、企んでんだろうな)
栞凛は不敵な笑みを浮かべ、不思議と笑っていた。




