第49話 馴染むって⋯⋯
「今日は何作ってくれるの?」
後日の夕食、食卓には見慣れない姿がいた。
「今日は、別に普通の肉じゃがとコロッケだけど」
「ん〜! もう、聞いただけで美味しそうなんだけど〜!」
こいつの脳みそ、どういうように変換してんだ? 食べ物の名前を聞いただけで美味しそうって。
「じゃあ、待ってるね!」
「う、うん」
最近、うちのテーブルの周りに1つ椅子が増えた。
それも全部こいつのせいだが。
******
「はい、できた。あとは米ね」
そのとき、ちょうど炊飯器から音が鳴った。
「タイミング完璧じゃん!」
もう、まるで見計らったかのように米が炊けた。
「はい。よそったから、食べていいよ」
「ありがと〜! やっぱ超優しいね!」
ニコニコの顔を僕に見せながら食べようとすな。食事に集中しろ。
「あ、あっあ、あああ!」
ボトンッという音とともに、コロッケが机の上に乗っかった。
「よそ見してるからそうなるんだよ」
冷たく言いつけておく。一応ね。
「えー、まあ、いっか!」
いやいや、良くないのよ。後で拭けよ?
「う〜ん! めっちゃおいひい〜!」
薄く透き通ったようなほっぺを膨らませ、そこに両手を当てている。
「ほっぺがとろけちゃう〜!」
「⋯⋯んなわけ」
「あるもん!」
耳に響くような大声を出された。
家が揺れるよ、やめて。
「これ五つ星とれる!」
ミシュランって、最大三つ星だろ。
「あっ、そ」
僕は、雑な返事をする。
もういいや。訂正がめんどくさいや。
******
「ふーっ! ごちそうさまー!」
両手を合わせ、意外にもきちんと挨拶をしている。
「自分で片付けてよ」
バシッと、栞凛と目線が合う。
こいつ、めちゃくちゃ混乱してる⋯⋯!
「⋯⋯え?」
「え? 自分でやるもんじゃないの?」
「⋯⋯え?」
しばらく、無言が続いた。
無言の後、口を開いたのは僕だった。
「うちでは、そういうルールなんだけど」
「いやいや、うちでは全部ママにやってもらうんだけど」
こいつ、母親を頼りに頼ってるタイプだな⋯⋯。
「ま、とりあえず片付けて自分で」
「大輝くんのお願いだもんね」
ん? 今僕のお願いって言った? お願いじゃなくて、ルールなのよね。
「大輝くんが言うなら、いいよ!」
「僕が言わなくてもやってくれないと」
僕が言わないとやらないって、ルールに反しまくってるのよ。
「これはどこに片付けるの?」
と、自分が使った茶碗を持ちながら、キッチンを右往左往している。
「流しで洗ってから片付けてよ?」
「え? あー、そういうこと?」
逆になにがあんのよ。
「じゃあ、よろしくね!」
「いや、自分で洗うんよ。使ったやつは」
と、流しに茶碗を入れただけで去っていこうとする栞凛を止めた。
「え? 自分でやるの?」
「いや、当たり前でしょ」
僕と栞凛の言い争いに、首を突っ込むやつが出てきた。
「いいわよ。やっておくから、遊んでらっしゃい」
「だめだよ、だめだめ。やらせないと」
「そうだよ! 大輝くんの生活に馴染んでいかないと!」
⋯⋯ん? 待てよ。こいつ、今なんて言った?
しばらく、静寂な空間が続いた。
「ふふ、それもそうね」
母親は、口に手を当て、クスクスと笑っている。
「でしょ!? じゃあ、私がやる!」
「じゃあ、お願いするわね」
馴染むって、え? どういうことやねん。
僕が栞凛と母親の顔を交互に見てみる。
どちらも、いたずらっぽく笑っているんだが⋯⋯。




