第47話 危ういような⋯⋯
「観覧車、いっくぞー!」
そう言いながら、僕の手を絶対に離そうとしない栞凛だった。
「えー。時間の無駄だよ。これも」
「いいの! 大輝くんと、みっしつ⋯⋯じゃなくて、ゴンドラで一緒に景色見るの!」
今さ、ちょっと危ういような言葉聞こえたよね? 僕は、何も聞いてない。うん聞いてない。
「空いてるじゃん! ラッキー!」
栞凛は乗り場までの道を走り始めた。
「行くよーっ! 速く〜!」
「はいはい」
やめてよ。走らないで。めんどくさいから。
僕はそう思いながら、小走りで向かった。
「それでは、楽しんできてください〜!」
「は〜い!」
キャストの人が、おそらく作らされたような笑顔で見送ってくれた。
それに元気よく返事をするのが栞凛だ。
「ほ〜ら! 速く!」
栞凛に手を引かれ、僕はゴンドラに乗り込んだ。
「ふふっ! やっと2人きりになれたねっ!」
ウインクをして、すっごい笑顔で語りかけてくる。
こいつ、はたから見たらやばいやつやぞ、マジで。
「だ〜い〜き〜く〜ん〜!」
「何? って、うおっ」
僕が栞凛の方に目を向けると、目の前には栞凛の顔が広がっていた。
「ふふ〜ん!」
不敵な笑みを浮かべながら、両手を広げて僕に迫ってくる。
だんだんと視野が狭くなってきてる。前が見えない。
そのとき、『びゅー』と大きな風の音が聞こえた。
「あ、っと。危な〜い」
栞凛はバランスを崩し、転びそうになっていた。
危なかった。あのまま顔が近づいていたら、――考えない方が幸せだな。
「せっかくできそうだったのにー⋯⋯」
「え? 何が?」
顔と顔を近づけて、何ができるんや。
「もう1回、やる?」
「いい。嫌な予感しかしない」
間髪入れずに返事を返した。
「なーんだ。ま、あとのお楽しみ、って思えばいいもんねー!」
「何がよ? そもそも何がしたかったのかも知らないし」
こいつ、マジで思考が読めなすぎる。思考回路が僕とはまるで違う。
「あ! もうすぐ頂上だよ! 見てよこれ!」
栞凛は僕に外を見るよう促した。
「どう? 私みたいに、きれいでしょ?」
「うーん、否定はしない⋯⋯けど、肯定もしない」
景色はきれいだよ。うん。ただ、こいつの顔みたいに、と言われると、ねえ?
「何その返事。なんか、なー」
その言い方こそ『なんかなー』だろ。と、心の中で補足しておく。
「やばっ! 超高いじゃ〜ん!」
栞凛が外の景色を見ながら、嬉しそうにそう言っている。
「落ちたらちょーやばいじゃーん!」
そう言いながら、ゴンドラの中でめちゃめちゃはしゃぎまくっている栞凛だった。
「いや、そう言いながら飛び跳ねないで。揺れる」
「あー、そっか! ごめ〜ん!」
栞凛は僕の隣に座ってきた。
「ねえ大輝くん、こっち向いて?」
「ん? 何?」
ニコッ、と笑顔でこちらを見てくる。
「なんか用?」
僕がそう聞いても、栞凛は、何も答えない。ただただ無言で見つめてくる。
「ねえ、なんとか言ってよ」
「あ、何? ちょっと見惚れちゃってた」
これさ、僕なわけがないよね。多分、僕の後ろの景色だよね。そうだそうだ。そうに違いない。
「で、なに?」
「ん? 呼んだだけだよ? こっちを見てほしかったから」
そんな理由で呼ぶなよ。と思うばかりだった。
「もうすぐ終わっちゃうよ! 見て! 地面が近い!」
「あ、うん」
僕は窓から下を覗き込んだ。
「確かに、もう近いね」
「でしょーっ! ほら、もうこっち向いて?」




