第46話 時間の無駄よ
「え〜、仕方ないなあ!」
そう言いながら、ようやくっ腰に回されていた手がなくなった。
「じゃあ、恋人繋ぎ、ね?」
「⋯⋯」
ん? 恋人繋ぎって、なんや? 僕が知らない単語を出さないでおいてや。
「手、出して?」
「ん? うん」
僕は言われた通りに手を差し出した。
「確か⋯⋯こうやって、と⋯⋯」
僕の指と指の間に、栞凛の指が1本ずつ入っていく。
これが、恋人繋ぎなのか。
「次、どこ行くの?」
正直、帰りたいよ。ただ、そうも行かないのが現実ってもんだ。
「ジェットコースター! あれね!」
栞凛が指差す方を見ると、ビュンビュン動き回っている機械がある。
そこからは、「きゃー」と、悲鳴が耳うるさく聞こえてきた。
「行こっ!」
「あ、ああ」
僕は、栞凛に連れられ、ゆっくりと歩き始めた。
「ジェットコースター、90分待ちで〜す!」
「うげーっ! ながっ!」
栞凛がふてくされて言った。
プーッ、と頬を大きく膨らませている。
「時間の無駄だな。やめよう」
僕の脳内ではそれが即決した。もう、信じられないぐらい速くに。
「あーっ! 手、離さないでよーっ!」
またまた僕の腰が手で囲われた。
「つーかまーえた!」
「やめてよ。離してって」
「やーだー」
栞凛はいたずらっぽい笑い声を漏らした。
「このまま連れて行っちゃおうかな!?」
さっきから、栞凛が僕を抱いてるからか、周りの視線が痛い。
「変な目で見られてるから。やめてよ」
「いいのーっ! 私は気にしないもーん!」
「やだよ。僕が気にするから。やめて」
無理やり手を引き剥がそうとした。――が、無駄だった。
「大輝くん、弱くなーい?」
そんなに煽らないでよ。非力なのは事実なんだから。
「そうだけどさ。とりあえず離してって」
「えー! これでいいのーっ!」
一向に離してくれる気配がないのは気のせいなのか。
僕らの周りだけなぜか空間までが出来ている。
「カメラも向けられてるよもう」
かなり呆れが入ってるような口調で伝えてやった。
「もー、仕方ないなあ! 恋人繋ぎね!」
「はいはい」
ここで断って、またあんな抱かれるのはもうごめんだ。恋人繋ぎならまだ軽いもんだろ。
「観覧車でも行こうよ! 確かあったよね?」
「⋯⋯あるな。かなり奥の方だったな」
「わかった! じゃあ、レッツゴーッ!」
栞凛は走り出した。
「ちょっと、速いって」
運動能力の差もあるし、やめてよもう。
無理やり栞凛の手を振りほどこうと、思いっきり腕を振り回した。――が、意味はなかった。びくとも動かない。
「大輝くん遅いって! もうちょっと速く走ろうよ?」
「速すぎるんだよ。僕は頑張ってるよ」
こいつの方が断然足速いんよ。追いつけるわけないやろ。
「も〜、しょうがないな〜!」
とはいいつつ、少しうれしそうな栞凛だった。栞凛は、僕の横に並んで歩き始めた。
「しょうがない、って、僕は別に行かなくてもいいわけだし?」
まあどうせ行くとこないし行くんだろうけどね。
と、心の中でツッコミを入れる。
「あーっ! それはだめーっ!」
と、握る手にかなり力が入った。
「ちょ、痛い、痛いよ」
「痛くしてるんだもん!」
プイッ、と、栞凛は僕と目を合わせなかった。
「逃げたら、ね?」
「逃げない、逃げないから、痛いのよ」
僕がそう言うと、手にかかる負荷が小さくなった、そんな気がする。
「よーし、観覧車へ、レッツゴー!」




