第45話 矛盾しとるが?
「さ、楽しんでらっしゃい」
母親がにっこにこで手を振りながら僕たちを送り出してきた。
「じゃあ、手、つなご?」
「⋯⋯」
返事をしなかった。拒否も、肯定も。
「ふふっ!」
そう言いながら、僕の手を握りしめてきた。
僕の右手からは、栞凛の温もりが感じられた。
「大輝くんの手、つめた〜い!」
僕の手は栞凛に奪われた。
「ずっと、一緒だね!」
口角を高く上げて、こちらを見ないでもらえます?
「う、うん⋯⋯」
僕は顔を引きつらせていただろうか。
******
「それでは、楽しんで来てくださいね〜」
おそらく作り笑顔であろう笑顔で送り出された。
「ねえ、何乗る?」
僕は、さっきもらった園内の地図を広げた。
「見てこれ! お化け屋敷だって!」
栞凛が行きたそうに目を輝かせている。
「行くの?」
「うん!」
僕の問いかけに、元気よく返事を返された。
「私が、守るからね!」
「あ、うん⋯⋯」
僕、おばけとか信じないから、正直怖くないけどなあ。
そんな本音は置いといて、一応アトラクションを楽しむことにする。
「きゃあああ!」
栞凛の悲鳴が耳元でうるさい。叫ぶなよ。公共の施設やぞここは。ってお化け屋敷で言うのは変人なのか。
「あああああああ!?」
僕は盾に目の前のお化けを防ごうとしてくる。
どうせこんなの、作り物なのに。
「いやあああああああああ!?」
だからうるさいよさっきから。もうちょっとボリューム下げてよ。
「なんか出てきたあああああああ!?」
これ、僕の鼓膜持つかな⋯⋯。
「これ、心臓持つかな!? 待って、またなんかいるんだけどおおおおおお!? きゃああああ!?」
こいつの心臓より僕の鼓膜の方が、大事すぎる。
「ああああああああああ!? またいるんだけどおおおおおおおおおおお!?」
せっかくのアトラクションなのに、横のうるさいやつのせいで何も楽しめねえ。
「ねえ、手、離してくれない?」
「え、なんでええええええええ!?」
これさ、僕の声に驚いたのか、おばけに驚いたのかわかんなくなるな。
「ビビって逃げようとするとき、僕毎回転びそうなんよ」
「え? そうなの?」
いやそうだよ。普通に考えればわかるのよこのくらい。
「じゃあ、私の前にいてくれればいいよ! 私を守って!」
「は、はあ⋯⋯?」
さっきまで『私が守るからね!』って言ってたのはどこのどいつだっけな〜。
僕は栞凛のことを半分も開いてない目で見つめた。
「なんでそんな顔になるの!?」
「だって、さっきと言ってること、違うし⋯⋯ねえ?」
矛盾してますよ。見事に気づいてないようですが。
「え!? さっきなんかあああああああああああああああ!? 出てきたああああああああああ!?」
地面から、人間っぽい何かが生えてきた。
僕は少し横に避けて、まっすぐ進んだ。
「大輝くん、平気なの?」
もう手を繋ぐどころか、腰に手を回してますよ、あなた。
涼みに来たのに、余計暑いじゃんかよ。
「うん。まあね」
理由言うと絶対夢潰すから、やめとこ。
僕は栞凛のせいで重たい体を、頑張って上げて歩き始めた。
「おかえりなさ〜い!」
キャストの人が出迎えてくれた。
作り笑顔すら一瞬消えるぐらい顔を引きつらせてたけど、大丈夫そ?
「楽しんでくださいねえ!」
と、キャストさんが僕たちに言ってくる。
こんな、抱きついてきてるやつらなんか、すぐにどっか行ってほしいだろうね。
「でさ、いつ離してくれるの?」
「ふふっ、いつだろうね?」
そのさ、なんか曖昧な返事やめてや。




