第41話 さらば、隅っこ
「ねー、暇なんだけど」
「ふーん」
だからなんだよ。なにがしたい。
「せっかく一緒のベッドにいるのにさあ、なんでそんなにきわきわにいるの?」
僕はもう、床でいい。なんならベッドの下でもいい。とにかくこいつから離れたい。
「あ、私が寄ればいいのか!」
「⋯⋯うげ」
近づきたくないからきわきわにいるのに、なぜ寄ってこようとする。
「ふふーん! 私ここね!」
「狭い。落ちる」
くっついてくんな。離れてくれ。
「だってえ、大輝くんがあ、そこにいるからあ、でしょお?」
確かに、そうかも。それもこいつのせいだがな。
「もっと離れて」
「じゃあ大輝くんもこっち来てよお!」
嫌だ。なんで僕がわざわざ行かなきゃいけない。僕はここで寝るんだ。
と、決意したのもつかの間、異常に口うるさいこいつを止められず、渋々場所を離れることにした。
「(さらば、隅っこ)」
ベッドの端に別れを告げ、少しズレた。
「やった! これで近づいたね!」
「近づいてしまった⋯⋯」
僕は栞凛がいない方向を見て、夢に入ろうとした。
「じゃあ、お遊び、しよ?」
その期間、寝たフリに尽力すると心に決めた。
「ねえ、聞いてる? おーい!」
栞凛が口うるさく語りかけてくる。
本当にうるさい。黙ってくれ。
「ぜーんぜん起きないや。ちぇっ」
その『ちぇっ』って何なんだよ一体。
「はあ〜、もう、眠り深すぎでしょ」
しばらく話しかけてきた後、ようやくそれが止まった。
「なーんだ。寝るの早すぎでしょ」
そう文句を言う栞凛だった。
そんな栞凛も、さすがに寝息を立て始めた。
乗り切った。乗り切ったんだ僕は。
******
『ドサッ』
そんな音で、目を覚ました。
「⋯⋯もう、こんな夜中に」
スマホを見てみると、時刻はなんと深夜2時。
ふと横を見ると、奥には壁があるのみ。
「ん? あいついねえな」
そこで、僕はようやく気づいた。かかっていた布団がなくなっていることに。
その布団は、床へと続いていた。
「⋯⋯落ちた?」
僕はそう思いながら、下を見てみる。
「⋯⋯よく起きねえなこいつ」
床には、寝息を立てながら気持ちよさそうに寝ている栞凛がいた。
「ああ、大輝、くん。待ってえ」
「ん?」
栞凛に呼ばれ、その方向を向いた。
「⋯⋯」
「すぅー、すぅー」
静かで規則正しく寝息が返ってくる。
寝言かいな。紛らわしい。⋯⋯僕が出てくる夢? なんだそりゃ。
「はあ」
その後、僕は全然寝付けなかった。
******
「大輝くーん! 朝だよー!」
その声とともに、目を覚ました。
「ん?」
目をこすりながら重たい体を起こした。
時計を見ると、もう10時を回っている。
「大輝くん遅いよー! 待ちくたびれたんだから!」
大体こいつが悪いのに。
「はいはい」
適当に返事をし、ベッドから腰を上げた。
「ご飯は作ってあるからね!」
「うん」
⋯⋯ん? 待てよ?
僕は疑問に思い、声のした方に視線を送った。
「え?」
「ご飯はあるから、食べていいよー! って」
僕の思考回路は、ショートした。
「え、作れるの?」
そこにいた栞凛と、完全に目が合った。
一瞬、沈黙が流れた。
「え!? 作れるよ?」
「体育祭で食べた弁当、あれ全部手作りだよ!?」
確かに、そんなこともあったなあ。体育祭、ねえ。
「え、あれって、冷凍じゃないの?」
再び、静寂が間を横切った。
栞凛の目が、完全に合った。
「はああああああああ!? 冷凍だと思ってたのおおおおおおおおお!?」
栞凛の雄叫びが、家中に響き渡った。




