第4話 わかりたくもない
「で、僕はどうすれば、いい?」
結局僕はいつ帰っていいのか、よくわからない。
「あ、えーっとねぇ、ここにいてもいいよ」
「帰っても、いい?」
僕がそう言う。
「へー、⋯⋯帰っちゃうんだあ」
栞凛は指いじりをしながら言った。
なぜか含みのある言い方だなと僕は思った。
「じゃあ、さよなら」
察しろと言っているようだったが、僕はそんなのお構い無しに帰ろうとする。
「へー、⋯⋯本当に帰っちゃうんだあ」
「ええ。いてほしいなら、そう言ってください」
僕は伝えることをちゃんと言ってほしいと思う。帰るなということだろうが、僕は言われたように行動するだけだ。
「そんなに、帰りたいんだ。私といたくないんだ。ふーん」
「ええ。今すぐに帰って、塾の支度をしないと」
僕はそれだけ言うと、今すぐに帰ろうとする。
「やっぱ、⋯⋯きくん、⋯⋯めごころ、わか⋯⋯いよね。ちょく⋯⋯、つ⋯⋯るのが⋯⋯だけ⋯⋯しいか」
消え入りそうな声でうつむいてしゃべりだした。悲しそうに指をいじっている。やっぱり察しろということであろう。何を言っていたのかも、大体検討がつく。
「(『やっぱ、大輝くん、乙女心、わからないよね』)」
わからない、それでいい。わかりたくもない。僕は恋愛なんかに関わらずに人生を生きていきたい。
ただ、さすがの僕でも、これで帰るのは罪悪感というものが残る。今日モヤモヤして終わるくらいなら、きっぱりと帰っていいと言ってもらいたいものだ。
「⋯⋯して、⋯⋯たって、⋯⋯じゃん」
「いえ。言うことははっきり言ってもらわないと」
僕がそう言うと、栞凛は顔をあげる。
「じゃあ、断らない、でよ?」
栞凛は上目遣いで聞いてきた。僕はそれに思わず顔を引きつらせそうになった――が、ギリギリで引き止める。危ないところだった。
「内容によっては、断るかも、しれません」
「一緒に、片付けて?」
遠回しに帰るなと言っているようだった。まあ言ったことには変わりない。僕は帰る支度を中断した。
「わかりました。ですが、見られたくないものは、大丈夫、なんですか?」
僕は一応聞いてみる。後々文句を言われるのも、僕にとってはしゃくだからだ。
「いいよ。大輝くん、なら」
僕はその言葉のどこかに奥を感じたが、黙っておく。言うことですらない。そもそも言うことがめんどくさいと感じたからだ。
「わかった。段ボール持ってきて。大きめの」
「段ボール? あったかなあ?」
そう言いながら栞凛は階段を下っていった。
また階段を滑り落ちたような音がする。僕にとっては雑音でしかないと脳が判断した。
「あった、あった〜」
そう言いながら持ってきたのは潰された段ボールだった。
大輝はその段ボールを組み立てながら言った。
「今の服のサイズは? そこからいらないのは判断する」
そう聞いても、返答が返ってこない。そんなときにも塾の時間は迫っていた。
「いくつだっけなあ、確認していい?」
「ご自由にどうぞ」
大輝はそっけなく返した。
「もう階段で滑りたくないし、ここで確認しよっと」
そう言いながら、栞凛は制服のボタンを外し始めた。
「せめて廊下でやって」
「えー、だめ?」
僕は頷いた。だめに決まってるだろうに、なぜそれがわからないのか。
「塾までの時間を考えて、あと30分が限界。早くしないと時間なくなるよ」
「あ、それはだめ! ちょっとまってて!」
栞凛は扉を開け、急いで廊下に行った。




